パワハラで障害者になった男性が前向きなワケ そう状態で買い物をやめる事ができなかった

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「支援やサービスを一括して教えてくれる窓口がないと感じました。例えば、医療費助成の『自立支援医療』も、(住民税非課税の人などが対象になる)プレミアム付商品券も、私のほうから行政に問い合わせをして初めて自分が利用できることを知りました」。

私が、ワンストップでの対応をうたう生活困窮者自立支援制度があることを伝えると、制度のことは知らなかったし、教えてくれる行政担当者もいなかったという。 

さらにユウイチさんは「(民間会社主催の)障害者を対象にした合同企業説明会に、障害の種類も程度もスキルも違う人たちが一緒くたに参加させられることに驚きました。ちゃんと区分けしたほうが、企業のニーズともマッチしやすいんじゃないかと感じました」と指摘する。

大切なのは、毎日同じリズムで無理をしないこと

取材中、ユウイチさんの話しぶりは終始落ち着いていて、饒舌な場面は1度もなかった。私がそう伝えると、「自分でも気をつけていたからだと思います。1年ほど前に自分に合った処方薬が見つかったので、そのおかげかもしれません」と言う。

昨秋、例によって仕事を抱えすぎて体調を崩しかけたが、幸い先に異変に気がついたかかりつけ医がストップをかけてくれた。このとき、医師から「大切なことは、毎日同じリズムで無理をしないこと。決まった時刻に出勤し、定時で帰る。ルーティーンを守ることです」と言われたことを、肝に銘じているという。

それでも無欠勤とはいかず、毎月の手取り額は年金を合わせても生活保護水準を少し上回る程度。そこから借金も返しているので生活はカツカツだ。ユウイチさんは「まずは勤怠がこれ以上不安定にならないよう気をつけています。残業できない分は、パソコンのショートカットキーをカスタマイズしたり、辞書ツールの機能を強化したりして、作業効率を上げる工夫をしています」という。

今も全身が痛んで起床できないことがあるし、不眠とも長い付き合いになる。原因は定かではないが、朝起きてみたら、身に覚えのないチャーハンを作って食べた形跡があるといった記憶障害に見舞われることもある。これからも希死念慮から完全に解放されることはないかもしれない。双極性障害は遺伝要因も大きいと言われるが、私などは、ろくでもないパワハラ上司との出会いさえなければと考えてしまう。

一方で、ユウイチさんは、自分には病を得ても寄り添ってくれた友人もいるし、効果的な処方薬と出合うこともできたし、昨年末には契約更新もなされたという。そしてこう言って前を向く。

「いま、少しずつ自己肯定感を取り戻せている気がします」。

本連載「ボクらは『貧困強制社会』を生きている」では生活苦でお悩みの男性の方からの情報・相談をお待ちしております(詳細は個別に取材させていただきます)。こちらのフォームにご記入ください。
藤田 和恵 ジャーナリスト

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ふじた かずえ / Kazue Fujita

1970年、東京生まれ。北海道新聞社会部記者を経て2006年よりフリーに。事件、労働、福祉問題を中心に取材活動を行う。著書に『民営化という名の労働破壊』(大月書店)、『ルポ 労働格差とポピュリズム 大阪で起きていること』(岩波ブックレット)ほか。

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