30代前半で転職した先は、業種は違えど、それまでと同じ総務の仕事。問題は、「あらゆる部署で対人関係のトラブルを起こしてきたという評判の人」が社内の異動により直属の上司になったことだった。案の定、一言で済む社内の規定や資料の場所を教えてくれないので、ユウイチさんの業務は滞った。ただ、このときは先輩も部長もユウイチさんのほうをかばい、問題の上司に態度を改めるよう注意してくれたという。
ところが、上司は今度は毎日数時間、ユウイチさんの席の真後ろに立ち、「いまのパソコン操作の目的は?」「なんでそのやり方をしたんだ」と言っては、仕事ぶりを監視するようになった。さらに2人きりになると「てめえは使えねえよな」「なんにもできねえじゃねえか」などの暴言を浴びせてきたという。
完全なパワハラである。「私の後に入ってきた社員2人が『耐えきれません』と言って辞めていきました。(後輩ができないので)私への当たりが強いままでした」。
うつ病と診断、そして突然の契約解除
違和感を覚えたのは勤続5年を迎えるころ。仕事の効率が落ち、当時、結婚していた妻からも疲労困憊ぶりを心配された。ある冬の日の朝、汗だくで目が覚め、振り返ると自分の人形の汗染みがぐっしょりとシーツに広がっていた。驚いて駆け込んだ病院で、うつ病と診断されたという。
その後、会社側の提案で契約社員にさせられ、さらに数年が過ぎたある日、突然役員から呼び出され「今日で契約を解除します」と告げられた。このとき「パワハラなんてほんとはなかったんじゃないの?」と言われ、さすがにユウイチさんが、ほかにも辞めた社員がいたことを伝えると、「誰だっけ?」ととぼけられ、それ以上言い争う気が失せたという。
ユウイチさんは、一方的な契約社員への変更も、契約期間中の即日解雇も原則違法であることは知っていた。しかし、体調が優れない中、反論するだけの気力が湧かなかったのだという。ユウイチさんの人柄もあり、突然の解雇に涙を流してくれる同僚もいたし、「守ってやれなくてすまなかった」と声を掛けてくれる先輩もいたという。しかし、メンタル不調の社員をクビにするのはおかしいと声を上げてくれる人はいなかった。
うつ病と診断されてからの転職は、いずれも長続きしなかった。40歳を過ぎてからは、介護職場や飲食業での就労も試みたが、年収は下がる一方。新卒で勤めた会社では500万円ほどあった年収は約300万円にまで落ち込んだ。
転職先の中には、いわゆるブラック企業もあったが、一方でユウイチさんが頼まれるままに大量の仕事を引き受け、連日の深夜残業でこなした後、一転して体調が悪化。結果的に欠勤やミスが増え、退職に追い込まれることもあった。また、自覚はないものの、同僚から「普段は穏やかなのに、感情の起伏が激しい」といった指摘も受けたという。
無料会員登録はこちら
ログインはこちら