「久遠チョコレート」はなぜ人気となったのか 「SDGs」に取り組み、スタッフの7割が障害者

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高級感のあるギフトボックス。障害者によるアートを採用したラッピングもある。いくつか種類があるので好みのものを選ぶこともできる。選ばれたアートの作者にはデザイン使用料が支払われる仕組みになっている(筆者撮影)

久遠チョコレート事業で働く330人のうち、障害を抱えるスタッフは230人。彼らの月収は、拠点によって差はあるが、平均で16万円前後となっている。これに、国の障害年金6万円を合わせると、ギリギリ自立できるレベルの金額となり、夏目氏の当初からの目標はひとまず達成できたことになる。

実際に浜田山店で働く、吉田貴志さん(仮名)にお話を伺った。うつ病や統合失調症などの精神的な問題を抱える吉田さんは、障害者を対象とする職業紹介を通じて2カ月前から同店に勤務。日に5時間、週に4日というシフトで働いている。

この仕事の以前は薬局で販売をしていたが「仕事を抱え込みすぎて精神的に不安定になり、お店で症状が現れてしまった」ことが原因で退職。

「チョコレートを作るのは楽しく、無心にできる」

「職場は優しい人ばかり。またチョコレートを作るのは楽しく、無心にできるので自分の状態に合っている。給料の額というよりも、また将来働けるようになるための通過点と思っている。正直なところ、今は先のことまで考えられず、毎日を必死に生きている」(吉田さん)

チョコレートをパックする作業(シーリング)を行う吉田貴志さん(仮名)。働くようになって2カ月だが、チョコレート作りにかかわる作業は一通り習い終えたところとのこと(筆者撮影)

吉田さんにとって、自分を確認できる大切な場所となっているようだ。

久遠チョコレートはスタートから足かけ7年、今が真価を問われる時期だと夏目氏は考えている。「今は一般社団法人ですが、将来的には上場を目指しています。福祉事業としてではなくて、チョコレートのトップブランドとして名を知られるようになりたい。また上場によって、そのことを経済社会の中でインパクトとして示せると考えています。私が今42歳なので、50歳までに達成したいです」(夏目氏)

夏目氏によると、チョコレートは「人に寄り添ってくれる」素材だという。例えばパンなら、生地の発酵や焼き上がりに合わせて、人が無理をして動く必要がある。それに比べ、チョコレートは自由度が高い。失敗したらもう一度溶かして固め直せる。

SDGsの概念は幅広いが、その1つに「誰も置き去りにされない社会」というものがある。それぞれ違う個性を持った人が、パズルを組み合わせるように力を発揮して、全体として成長していく社会。今、それを本気で事業にしようとしている世代が育ちつつある。

圓岡 志麻 フリーライター

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まるおか しま / Shima Maruoka

1996年東京都立大学人文学部史学科を卒業。トラック・物流業界誌出版社での記者5年を経てフリーに。得意分野は健康・美容、人物、企業取材など。最近では食関連の仕事が増える一方、世の多くの女性と共通の課題に立ち向かっては挫折する日々。contact:linkedin Shima Maruoka

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