佐藤優が説く「下品な人に心削られない働き方」 会社で急増?自分勝手であまりに図々しい人

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このような状況の中で成功し、勝ち残っていくのはどういう人でしょうか?

芥川龍之介の『蜘蛛の糸』という小説があります。自分だけ助かりたいと天から降ろされた蜘蛛の糸にしがみつき、下から登ろうとする人たちを蹴落とす主人公の話です。小説ではその瞬間に蜘蛛の糸はちぎれますが、勝ち組に残る人は主人公のように下の人たちを蹴落として、そのまま上がってきた人たちかもしれません。

まっとうな精神を持ち、繊細な感性を持つ人の中には、最初からその競争にすら参加しない人もいるでしょう。下にいることを甘んじて受け入れる「奥ゆかしい」人たちとも言えます。それを意欲や向上心がないとか、主体性や積極性がないなどと批評するのはお門違いというものでしょう。

私に言わせれば、現代の競争社会の中で勝ち残っている人は、特異な能力があるか、あるいは親の遺産を引き継ぎ、最初からスタートラインが違っているか、さもなければよほど図太く、図々しい人物であるかのいずれかだと思います。現代社会にあって、成功者の多くは「図々しい」人物だと言ってもよいと思います。それはマルクスがすでに100年以上前に指摘したことと重なっています。

資本家による「搾取」

マルクスは資本主義社会の中においては、生産手段を有する資本家と、労働力を商品として資本家に売るしかない労働者の2つに分かれると指摘しました。労働者はどれだけ働いてもお金持ちになることはできません。それは資本家が労働者を商品と同じように扱い、できるだけ安い賃金で働かせようとするからです。この構図をマルクスは資本家による「搾取」と呼びました。

ですからどんなに利益が上がったところで、資本家はそれを労働者に分配することはありません。どんな状況であれ、とにかく安く労働力を購入したほうが利益が上がります。資本家はつねに利益の最大化を図り、他社との競争を勝ち抜くために拡大再生産を行おうとするのです。

利益の分配は、役員や株主との間で行います。労働者は人格を持たない商品ですから、分配する対象ではないのです。資本主義のこの構図を知れば、お金持ちになるには搾取する側、すなわち資本家にならなければダメだということがわかるでしょう。

つまり、人間を人間として扱うのではなく、労働力商品として扱える人が資本家になれるのです。成功してお金持ちになるためには、他者を商品として扱える人でなければなりません。そういう人はどういう人でしょうか? 人を労働力商品として扱い、平気で搾取できる人間=図太くて図々しい人なのではないでしょうか?

資本主義の論理がむき出しになった現在の新自由主義経済の下では、繊細で優しい心を持った人が勝ち組になることは難しい。「図々しい人」ほどのし上がる。まっとうに人を人として扱い向き合える人、奥ゆかしい人ではとても勝ち組にはなれないということです。

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