「私の家でない」改造が裏目に認知症介護の苦悩 認知症の人ための「住宅リフォーム」を考える

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都会に住んでいた娘が、認知症になった母親を引き取ったら、逆に認知機能が下がってしまったというケースもある。また、親が認知症になったのでリフォームしたら、「ここは俺の家ではない」と言い張るので困っているという方もいた。リフォームなどで環境が大きく変わると、住環境の連続性が断たれてしまう。よかれと思ってしたことが、裏目に出ることもあるのだ。

考えられるのは(1)認知症ではない時期と(2)軽度の認知症と診断された時期だが、まだ元気なうちにリフォームするにはどこに気をつけたらいいのか、平さんに尋ねてみた。

「リフォームのポイントはいくつかありますが、まず玄関は車いすが入れられる広さにし、廊下も広めに取ることです。手すりは両側に取り付けたほうが楽です。トイレ、風呂、脱衣所も介助者が一緒に入れる広さがあったほうが使い勝手がいい。脱衣所は狭いとだめです。風呂場は内開きのドアより、引き戸のほうが移動は楽です。毎日使うところはできるだけ動線を広く取ること。階段はなるべく直線ではなく、曲がってもいいから傾斜を緩やかにしてください」

全自動トイレはNG?

もし4LDKの一軒家があったとすると、3LDKにして風呂、トイレ、廊下は広くしたほうがいいという。

「最近はトイレも全自動になっていますが、これはやめたほうがいいです。トイレっていろんな種類があるんです。トイレによっては水を流す位置も違うし、機能も違います。全自動で全部流すことが習慣になると、認知症になったときに外でトイレを使っても流さなくなることが多いんです」

実際に全自動のトイレで生活していた女性が認知症になった際に、旅館のトイレで大便をしたままお尻も拭かずに出てきたことがあった。トイレを使う手続き記憶(経験の繰り返しによって獲得された記憶)から、お尻を拭いて流すという記憶が欠落してしまったからだろう。こんな失敗が続くと、本人も家族も外出を敬遠する。日常生活の楽しみである外出がなくなると、ストレスが溜まる一方だろう。やがて爆発しないとも限らない。

平さんは、バリアフリーも考えものだという。

「完全なバリアフリーは、足を上げるという機能をなくしてしまいます。段差があるという認識がなくなり、ちょっとした段差でもつまずいてしまうんです。相当に症状が進んだ人でなければ、普段から足を上げることを認識させれば、バリアフリーにしなくても大丈夫です。不安なら、階段のところに白いテープを貼って『段差だよ』と教えてあげればいいのです。そうすれば段差とわかるし、絶対に学習します。転んだら痛いですから」

症状が軽い段階なら、段差でつまずかないように足を鍛えればいい。人に頼らない生活を望むなら、本人も努力するしかないのだ。

前田さんが運営するBLGの建物も典型的な非バリアフリーで段差だらけだ。それでも段差につまずいて倒れた利用者はいないという。

「バリアフリーにすると安全だと思うでしょう? 実は転ぶんです。段差があるほうが転ばないんです。視空間認識に障害が出た人は、床板の継ぎ目の黒い線でも段差に見えることがあります。普段、家の中に段差がない生活をしていると、急に段差があらわれたら足が動かず、バランスを崩して転びます。普段から段差がある生活だと、段差が見えてもさっと跨ぐなりして体をうまく動かせるんです」

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