「私の家でない」改造が裏目に認知症介護の苦悩 認知症の人ための「住宅リフォーム」を考える

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視空間認識に障害があると、暗い部分が落ち込み、明るい部分との境目が段差に見える。市松模様や縞模様がデコボコに見え、慌ててバランスを崩すことも。完全なバリアフリーより、段差に見えない工夫のほうが先決かもしれない。

前田さんは、元気なときのリフォームは別として、認知症になったら大幅なリフォームはしないほうがいいと言う。

「段差が危ないからバリアフリーにするというのは、家族の考えなんです。何十年もその家で生活してきた人には頭の中に地図があって、それに基づいて体が動くから、段差があっても体は動きます。それが前に記憶していた部屋と違うと、体がついていけないこともあるんです。

認知症の症状はその人によってさまざまです。途中で変わることもあるのに、先に先にとリフォームすると、体がついていきません。そのうえ、玄関が移動したり、部屋が変わったりしたとき、 前に記憶していた部屋と違うと認識すれば、自分の居場所じゃないと感じることもあります」

介護用ベッドを借りる人が多いが……

認知症になって介護保険サービスが受けられると、介護用ベッドを借りるケースが多いが、これも本人の状態に応じて借りるべきだという。

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「今まで畳で寝起きしていた人が介護保険を利用すると、ケアマネは介護用ベッドを勧めます。すると起き上がる力が奪われ、夜間にトイレで目が覚めたとき、逆に転んでしまうことがあります。畳で寝起きしていたのなら、何もベッドに替えなくても畳で寝起きしたらいいんです。介護用具を勧めるのは、認知症の人に利用してもらえばもらうほど、ケアマネと福祉業者が儲かるからです」

認知症と診断されたらリフォームと考えるのは、認知症に対する誤解があるからではないか。前田さんは言う。

「将来を考えて、最新型の設備を備えたい気持ちはわからなくもありませんが、本人が描くイメージに合わせて環境を変えるなら、頭も体もついていきますが、家族が勝手に先手を打ってリフォームすると、本人はついていけません。部分的なリフォームは症状が現れてから考えればいいのです」

そのときはもちろん間取りなどは変えないこと。ドアが壁と一体化して見えにくいなら、リフォームしなくても、ドアの周囲に白いテープを張っただけでドアだと認識できる。大柄の模様が入ったカーテンは誤認される可能性があって避けるべきだとされるが、誤認しない人も結構いる。

前田さんが「リフォームは、家族が先手を打ってやると必ず失敗します」というのは、家族の目線ではなく、認知症になった本人の目線で考えろということだ。これは平さんも同じ意見だろう。個別の事情や症状によっても変わってくるが、健康なときならいざ知らず、認知症と診断されてからのリフォームは、最小限にとどめたほうがいいのかもしれない。

奥野 修司 ノンフィクション作家

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おくの しゅうじ / Shuji Okuno

大阪府生まれ。立命館大学卒業。1978年から南米で日系移民を調査する。帰国後、フリージャーナリストとして活躍。1998年、「28年前の『酒鬼薔薇』は今」で、「編集者が選ぶ雑誌ジャーナリズム賞」を受賞。『ナツコ 沖縄密貿易の女王』で、2005年に講談社ノンフィクション賞を、2006年に大宅壮一ノンフィクション賞を受賞。『ねじれた絆』『満足死』『心にナイフをしのばせて』など著作多数。

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