しかし、「差別化を図った」という割には、2~3割安いというレベルに留まっている。新製品で一気に市場のシェアを取ろうと思った時には、「ペネトレーション・プライシング」という価格戦略を取るのが基本だ。場合によっては収支トントンも辞さず、競合が真似できない圧倒的な低価格を設定。シェアを取ったら規模の経済と経験効果で原価低減を図って収益を出す。
そう考えると、競合比2~3割安はまだまだ、圧倒的なコスト・リーダーのマクドナルドなら下げ余地はあるように思う。なぜもっと低価格に設定しなかったのか。筆者は、すぐに値下げをするのではないかと予測する。
前例がある。今年3月に発売開始して人気メニューとなった「マックホットドッグ クラシック」。発売した月内にすぐに220円を190円に30円値下げ、2個まとめて買うと330円(1つ165円。55円引き)という価格改定を行ったのである。今回のマックカフェメニューで再びそのような展開を狙っているのではないだろうか。
マクドナルドの事業ドメインは、あくまで「ハンバーガーファストフード事業」である。その事業ドメインでは絶対に負けないリーダー企業だ。「カフェ」は本来のドメインではない。だが、消費者の財布のひもが固くなった昨今の経済情勢と重ね合わせて、今回の展開を見ると、マクドナルドはそこでもリーダー企業となるような気がしてならない。既存のカフェ市場のプレイヤーは戦々恐々だろう。
ちなみに、筆者は頑なにスタバ派である。一言いいたい。マクドナルドは、美味しいものを安く、便利に提供してくれる。確かに財布には優しい。その企業努力も素晴らしい。けれど考えてみてほしい。体力のないコーヒーチェーンが次々と倒れていったとき、私たちの社会は、果たしてそれで豊かになったといえるのだろうか。利便性を選ぶか。選択肢の多様性を選ぶか。それを決めるのは、究極的には、消費者一人ひとり。私たち自身なのだろう。
金森努(かなもり・つとむ)
東洋大学経営法学科卒。大手コールセンターに入社。本当の「顧客の生の声」に触れ、マーケティング・コミュニケーションの世界に魅了されてこの道18年。コンサルティング事務所、大手広告代理店ダイレクトマーケティング関連会社を経て、2005年独立起業。青山学院大学経済学部非常勤講師としてベンチャー・マーケティング論も担当。
共著書「CS経営のための電話活用術」(誠文堂新光社)「思考停止企業」(ダイヤモンド社)。
「日経BizPlus」などのウェブサイト・「販促会議」など雑誌への連載、講演・各メディアへの出演多数。一貫してマーケティングにおける「顧客視点」の重要性を説く。
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