「全盲の親」に育てられた子が感じてきた"葛藤" 「善意」と「無遠慮な視線」に思うこと

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「そっとしておいてくれない?という感じです。だって私は生まれてからずっとこの家庭ですから、『大変』と思ったこともないし、『えらいでしょ』と思ったこともない。

しかも『大変ね』と言いながら、『お手伝いしましょうか?』とか言ってくれる人は少なかった。だったら、どうして『大変ね』なんて言うんだろう?と不思議でした」

忘れられない光景があります。小学校に入った頃、結子さんはある駅のホームから改札まで、父親の手をとって歩いていました。このとき、人ごみに気圧された結子さんが一瞬何かに気を取られたすきに、父親が階段を3段ほど転げ落ちてしまったのです。

しかしこのときも、父親や結子さんに手を貸してくれる人、声をかけてくれる人はいませんでした。皆遠巻きで、父と結子さんの周囲にはぽっかりと丸く空き地ができました。

「40年前は、本当に(声をかけてくれる人が)いなかったですね。今は、昔より手助けをしてくれる人が増えている気がしますけれど」

もし本当に増えているなら、うれしいのですが。今も当時と同じだとしたら、悲しいことです。

障害のある親をもつ子どもの気持ちとは

ただ、声をかけられない人の気持ちも少しはわかります。筆者もつい最近、駅のホームで何か探している白杖のおじいさんに声をかけたのですが、無反応でした。声のかけ方を間違えたのか? 次に同じ場面に居合わせたときにどうしたらいいか、結子さんに尋ねると、すぐに答えがわかりました。

「私だったら、肩を軽くたたいて『何かお手伝いしましょうか?』って声をかけるかな。触らないで話すと、視覚障害の方は、自分が話しかけられているのかほかの人が話しかけられているのかわからないので。実際、自分が話しかけられたと間違えて返事をした父が、恥ずかしそうにしているところを何度か見た記憶があります」

この連載を大幅に加筆した『ルポ 定形外家族』(SBクリエイティブ)が書籍になりました

それです! 私が声をかけたときも周囲に人がいたので、男性は声をかけられたのが自分だと確信がもてず、反応できなかったのでしょう。知らない人に話しかける際、先に身体に触れるのはちょっと気が引けますが、目が見えない人には必要なことだったのです。

「手だと、他人にいきなり触られたら嫌じゃないですか。腕をつかまれてグイグイ行かれるのも怖い。だから触るなら、肩か肘の後ろ辺りがいいと思います。

ただ、その人が助けを必要としていない場合もあるので、もし『いや、けっこうです』と言われても、それはそれで気を悪くしないでくださいね」

目が見えない親をもつ子どもを通して、目が見えない人々のことを、もっともっと世間に知ってほしい。結子さんだけでなく、障害のある親をもつ子どもには、そんな気持ちが大きいように感じます。

本連載では、いろいろな環境で育った子どもの立場の方のお話をお待ちしております。詳細は個別に取材させていただきますので、こちらのフォームよりご連絡ください。
大塚 玲子 ノンフィクションライター

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おおつか れいこ / Reiko Otsuka

主なテーマは「いろんな形の家族」と「PTA(学校と保護者)」。著書は当連載「おとなたちには、わからない。」を元にまとめた『ルポ 定形外家族』(SB新書)のほか、『PTAでもPTAでなくてもいいんだけど、保護者と学校がこれから何をしたらいいか考えた』(教育開発研究所)『さよなら、理不尽PTA!』(辰巳出版)『オトナ婚です、わたしたち』(太郎次郎社エディタス)『PTAをけっこうラクにたのしくする本』(同)など。テレビ、ラジオ出演、講演多数。HP

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