富士フイルム、新ビジネス請負人の上司論

富士フイルムのプロデューサー、戸田雄三氏に聞く(上)

三宅なるほど、オランダの研究所長になったことが新規事業のきっかけになったのですね。

戸田オランダ人の技術者たちが目をらんらんと輝かせて、僕を眺めているんですよ。この人はカラーフィルムのベテランで研究所長だから、自分たちにいい仕事くれるだろうと。僕はそれまで火事場騒ぎみたいな製造現場の中で、優先順位をつけて課題をパッパと設定して、自分も一緒に汗をかいて、手際よく片付けるという仕事をしていました。

しかし、研究所長はもう少し先のことも考えないといけないし、研究というひとつの仕事を通じてオランダ人の研究者を育てないといけない。彼らにとって富士フイルムはあこがれのワールドワイドブランドなんです。写真フィルムは誰でもなじみのある商品ということもあって、オランダの一流の人材が入ってきていました。

三宅それで、どんなコンセプトを出したんですか?

戸田3つの条件を考えました。ひとつ目は地の利を生かして、オランダの得意な研究分野を活用すること。2つ目は日本の研究所でやっていないこと。当時のオランダの研究所員は30人足らずでしたが、日本の研究所は2000人ぐらいいました。規模が全然違いますから、同じことをやっても勝てません。3つ目は会社の役に立つこと、富士フイルムの役に立つことです。

三宅具体的にはどんな研究テーマが出てきたのでしょう。

戸田オランダは個性的な実学重視のサイエンスに強みがあります。僕の中ではメインテーマを少なくとも3つ作りました。そのうちのひとつが、バイオテクノロジー分野で再生医療用のリコンビナントペプチド(RCP)です。再生医療とは、人工的に細胞や組織を培養し、それを移植して損傷した臓器や組織を再生させるもので、われわれはRCPを用いた研究で成果を上げています。

三宅このRCPに写真フィルムの技術が使われているわけですか?

戸田そうなのです。RCPは、わかりやすく言うと、遺伝子工学で作ったコラーゲンです。写真フィルムには、光を感じる物質、発色材料、安定剤など、いろいろな機能を持つ物質が重ねられています。特にカラーフィルムは、青、緑、赤などの色ごとに光を感じる材料があり、約20ミクロンの厚さに20層ぐらいの物質が重ねられています。それらが混ざらないように精密にポジショニングして、それぞれの機能がバランスよく発揮されるように最適な場を提供しているのがコラーゲンなのです。

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