全体像でモノを見る力
三宅:絵具に例えると、コラーゲンは色が混ざらないようにする役割を果たしているわけですね。
戸田:しかも、写真フィルムは写真を撮った後に現像します。現像、定着、水洗など、ここにもいくつもの工程があります。こうした複雑なウエットケミカルリアクションの場では、コラーゲンがないとピュアな色は出せません。写真フィルムには百数十年の歴史がありますが、コラーゲンを使うことによって工業製品として市民権を得たのです。
そのコラーゲンは牛の骨から取っていました。フィルム産業を支えてきたのは牛の骨なのです。富士フイルムは、良質なコラーゲンを作る工場を持っていました。というのも、コラーゲンの質が変わるとフィルムの感度が変わってしまうので、不純物が混ざらないようにしていたのです。写真フィルムはそのぐらい微妙な製品です。富士フイルムはそういうものをずっと製造してきたわけです。
三宅:その複雑で微妙なものをマネージする力がRCPの研究にも役立ったのですね。戸田さんは研究所からではなく、製造、開発部門を経て研究所長になるという、珍しい経歴をお持ちですが、このことはイノベーションを成し遂げるのに役立ちましたか?
戸田:役立っていますね。僕みたいな性格の人間は、最初に製造部門に入ってよかったと思います。
三宅:僕みたいな性格とは?(笑)
戸田:人にゴールを決めてほしくない。ゴールは自分で決めたいのです。僕らが入社した頃は、研究が分業になった時代でした。分業になると全体感でモノを見る力がなくなってしまうのです。今、再生医療で注目されている京都大学の山中伸弥教授がすごいのは、ビッグチームの一部分として動いているのではなく、全体が見渡せることなのですよ。
今の研究者の多くは役割を決められていて、ベルトコンベアの前に座って技術の一部をちょこちょこやっている。これでは大きな発明はできません。僕は分業化された研究所ではなく、全体が見られる製造から入った。全体感でモノを見る力が養われました。それがよかったと思っています。
(構成:仲宇佐ゆり、撮影:大澤誠)
※ 続きは3月19日(水)に掲載します
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