「外国人最年少」でミシュランを取った男の素顔 料理人・松嶋啓介とはいったいどんな人物か

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そして、日仏を行き来している時期に出会った日本人のフレンチシェフの言葉をきっかけに、松嶋さんは自身の目標を定める。

「そのシェフが言ったんです。『啓介くん、せっかく若くしてヨーロッパに行けたんだから、目標を3つ決めたほうがいいよ。自分は、『ジビエ』『テリーヌ』『魚』を極めると決めて、達成したのを一区切りに日本に戻ってきたんだ」と。

僕はすでにほかの人がやったことをかなえても仕方がないと思ったので、それまで前例がなかった『日本人がフランスで店を出す』『星を獲る』『フランス人に認めさせる』という3つに決めたんです」

後に、松嶋さんは自身が掲げたとおり、南仏ニースにフランス料理レストラン 『Kei's Passion』を開店、外国人として最年少でミシュラン1つ星を獲得、そして、フランス政府から「芸術文化勲章」「農事功労章」を受勲し、すべての目標を現実する。

人との違いを求めて身に付けた力

繰り返し「人と違う」というキーワードを説く松嶋さんだが、結果を出すためには、ただ単に人と違うことをすればいいわけではないと言う。

人と違うこととはいったい何か――(撮影:梅谷秀司)

「人と違うことをするためには、裏側にマーケットがあることを踏まえてやるのが重要です。身近な例を挙げると、レストランでパーティーがあるとします。

すると、大抵お店のスタッフは一斉にお客さまにシャンパンを注ぎに行こうとします。でも、そんなときぼくは周りを見渡し、まだ誰もやっていないことをやるんです。シャンパンボトルを冷やしているところに行って、栓を抜いて渡す係になれば、みんなに有り難がられるわけです」

それと同じように、社会に目を向けて手つかずの問題に気づき、ケアすることで、独自の価値を届けられるようになるという。

「人と違うことをしようと思っていると、『観察力』が磨かれてきます。それが、問題を発見することにつながります。ぼくの場合は普段日仏を行き来しているので、フランスにいるときは日本のことを、日本にいるときはフランスのことを俯瞰して見られる環境も大きいように思います。

よく周りから『クリエーティブで面白いことをやってるね』と言われますが、新しいことをやりたいからやっているわけではなくて、社会にこういう問題があるからそこをケアしたいと思ってやっているだけです。誰もやってないことは、最初からお金になんかならないですよ。でも、まずなんかやってみる。それがやがて主力商品になっていくものではないでしょうか」

「KEISUKE MATSUSHIMA」は渋谷区神宮前に店を構えている(撮影:梅谷秀司)

かつての日本では、効率よくモノの生産と普及に寄与する「スキル」が重宝されてきた。しかし、それから時が過ぎ、現代はモノやサービスがあふれ返っている。新しい現実を観察し、解決すべき問題を発見することができる「センス」の重要性が増している現代、松嶋さんの姿勢から学ぶことは多い。

幼い頃から発達させてきたのは、味覚だけではない。松嶋さんは鋭い嗅覚で現代社会が抱える問題を嗅ぎつける。

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