中年のひきこもり「年収1000万」でも危険な理由 「ひきこもり=怠け者」は間違ったイメージだ

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しかし、そんなUさんも限界に達します。母の他界から1年後、突然、社長に辞表を提出したのです。詳しい理由を伝えることもなく、周囲から引き留められても耳を貸すことなく、退職しました。

ここからUさんのひきこもり生活が始まります。退職後、Uさんは外部との接触をいっさい断ち、一緒に暮らしていた父親にも心を閉ざすようになりました。

退職から8年、まったく外出しなくなって6年が経過し、あるご縁で私どもにご相談をいただき、ひきこもり回復のためのカウンセリングを開始することになったのが、今から1年前のことです。

カウンセリングの中で、Uさんには発達障害の1つである自閉スペクトラム症(旧・アスペルガー障害)の傾向が見受けられました。人付き合いが得意ではない、興味や関心のあることへの能力が高い、学力が高い、マルチタスクの仕事に苦痛を感じやすいといったUさんの特徴は、自閉スペクトラム症の代表的な特徴としても、よく知られています。

現在、Uさんは私どものカウンセリングと共に、保健師と精神保健指定医の訪問支援を受け、ひきこもりからの回復に向けて日々、一歩一歩、歩んでいます……。

ひきこもりは決して「他人事」ではない

Uさんのケースでは、彼が発達障害だと疑われるため「自分とは違う」と思われた方もいるかもしれません。しかし、過剰な生きづらさを感じている方の中には、自分が気づいていないだけで、実は発達障害の特性を備えている方も少なくないのです。

『中高年がひきこもる理由―臨床から生まれた回復へのプロセス―』(書影をクリックするとアマゾンのサイトにジャンプします)

Uさんは、発達障害支援が十分でない時期に子ども時代を過ごされました。Uさんの世代では、発達障害の特性が見逃されたまま大人になり、社会に出た後で生きづらさを感じ、何かをきっかけにひきこもってしまう方も少なくないのです。Uさんのケースも、決して特別ではありません。

AさんもUさんも、多くの人と同じように進学、就職をして普通に働く中で、失業や母の死など、誰にでも起こりうることをきっかけに、ひきこもってしまいました。

もし、そのようなきっかけがなければ、AさんもUさんも、ひきこもらなかったかもしれません。そう考えると、ひきこもりが決して他人事ではないことを納得していただけるのではないでしょうか。

桝田 智彦 臨床心理士

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ますだ ともひこ / Tomohiko Masuda

親育ち・親子本能療法カウンセラー。学生時代から作曲家を目指し20代前半にグループでプロの音楽家としてCDデビュー。その後、デザイン職とSCSカウンセリング研究所の准スタッフをしながら、音楽活動を継続したが、30歳を前に親友を不幸なかたちで亡くしたことにショックを受け、ひきこもる。SCS代表である母の取り組みによって、ひきこもりから回復。30代から大学・大学院へ進学し、臨床心理士資格を取得。精神科クリニック勤務経験を経て現在、SCS副代表、東京都公立学校スクールカウンセラーとして、ひきこもり・不登校支援に従事している。著書に『親から始まるひきこもり回復』(ハート出版)がある。

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