北朝鮮への経済制裁、その効果やいかに? 政府は弱腰との批判があるが・・・

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経済制裁が戦争につながるリスク

 ところで今までの国連憲章第7章に基づく経済制裁は効果があったのでしょうか?

 下の表は、経済制裁を一覧にしたものです。もっと細かい表もありますが、ここでは概要だけが分かるものを載せました。

これを見てもらうと分かるように、「完全に成功した」と言えるのは、シリアに対する制裁で、他の制裁は、効果を発揮しなかったか、もしくは、不完全ながらもなんらかの効果を持ったというレベルです。逆に、経済制裁が戦争につながった例としては、安保理によるイラクへの半年間の経済制裁が湾岸戦争につながったケースがあり、戦前では、日本が米国等から石油輸出全面禁止、ABCD包囲網という経済制裁を受けた結果、戦争へ突入しました。経済制裁は、国際紛争のリスクを高めるという反作用も考えながら議論する必要があります。

本当に怖いのは「ミサイル」よりも「テロ」

 六カ国協議などに北朝鮮が応じ「正常な国家」になるならば、北朝鮮のミサイルの脅威は低くなりますが、このままだと北朝鮮のミサイルは現実的な脅威となるため、国の自衛手段を考えないといけません。ミサイル防衛(MD)は説明を聞いている限り、技術的に課題があります。実現までには数年以上の期間が必要だと思います。MDの開発が終わったら、北朝鮮問題の状況も変わっていた、ということは相当高い可能性でありうるのではないでしょうか。

 また、軍事の専門家に話を聞いたところ「北朝鮮の問題は、ミサイルでなく、テロだ。わが国のインフラは非常に脆弱であり、潜伏した北朝鮮兵が化学兵器、生物兵器でテロを起こした場合、その被害は甚大になる」と教えてくれました。

 テロ対策、防衛兵器の開発も必要ですが、これらはコストも時間もかかります。やはり、もっとも有効な安全保障は、「中国、韓国、そしてロシア」という近隣国との連携を取れる外交をきちんと行うことに尽きると考えます。アメリカは、外交上わが国の最も重要なパートナーですが、問題が起きるたびにアメリカの力を借りるのでは、東アジアを本当の意味で安定化させることは難しいのではないのでしょうか。

藤末健三(ふじすえ・けんぞう)
早稲田大学環境総合研究センター客員教授。清華大学(北京)客員教授。参議院議員。1964年生まれ。86年東京工業大学を卒業後、通商産業省(現経済産業省)入省、環境基本法案の検討や産業競争力会議の事務局を担当する。94年にはマサチューセッツ工科大、ハーバード大から修士号取得。99年に霞ヶ関を飛び出し、東京大学講師に。東京大学助教授を経て現職。学術博士。プロボクサーライセンスをもつ2女1男の父。著書に『挑戦!20代起業の必勝ルール 』(河出書房新社)など

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