米中貿易合意のカギ握るアイオワ州の重要意義

因縁の地巡る大統領と国家主席の出来レース

国家主席にとってのアメリカ。そして、このときから中国によるアメリカ産農産物の大量買い付けが本格化する。そこには切実な中国の事情がある。

アメリカの思想家レスター・R・ブラウンが『だれが中国を養うのか?』と題する論文を発表したのは、1994年のことだった。当時から中国の人口は12億人を超え、経済的な台頭による、将来の食料危機を叫び、世界中に衝撃が広がった。

折しも、その翌年の1995年、中国を凶作が襲う。1970年代の終わりから、鄧小平の改革開放政策によって、世界市場との関係を深め、外貨も蓄えていた中国は、コメ、小麦、トウモロコシを1800万トンも輸入した。

これが世界中にショックを与えた。とくに慌てたのが中国のあとを追う途上国だった。中国の輸入が増えると、国際価格が上昇して、途上国は食料が買えなくなる、というのが理由だった。世界の食料の安定供給を中国が破壊する、というのだ。

この懸念は、急速な経済成長で途上国の盟主を自負していた江沢民をはじめとする当時の中国指導部にとっても衝撃だった。

そこで1996年10月、中国は『食糧白書』をはじめてまとめ、同年11月にローマで開かれた世界食糧サミットにおいて当時の李鵬首相が、世界に向けてこう宣言している。

「中国は95%の食料自給率を維持する」

これがそのまま中国の食料政策となった。

ところが、この食料政策を転換させたのが習近平だった。かつてのホームステイ先を訪れた9カ月後の2012年11月、既定路線どおりに中国共産党総書記に、翌年3月には国家主席に就任すると、中国国内の重要会議を経て、これまでの食料政策の見直しに踏み切った。

中国はアメリカからの穀物輸入を増やせる

「95%の自給率維持」というそれまでの政策から、まず、人が直接食べるコメや小麦の主食用穀物と、トウモロコシや大豆などの飼料用穀物、油糧種子を明確に区分し、前者の「絶対的自給」と、後者の「基本的自給」という2つの方針を打ち出したのだ。基本的に自給できない分は、すなわち輸入によって補完される。言い換えれば、基本的な姿勢さえ崩さなければ、輸入はどこまでも増やせる。

中国は堂々と、そしてこれまで以上に、穀物輸入をはじめると公言したに等しい。

むしろ、そうせざるをえなかったのは、中国本土の環境汚染だった。

習近平が国家主席に就任して1年が過ぎた2014年4月、中国環境保護省が調査、公表したところによると、中国国土の土壌の約16%に何らかの汚染があることが判明。しかも、農耕地に限っては、19.3%が汚染されていたのだ。公害の圧倒的大半は、基準値を超える重金属や化学廃棄物が検出されたものだった。「世界の工場」として経済発展を急いだツケだった。

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