「本当にいい組織」ほど基本に忠実という事実 分業しつつも分断されてないのが良い組織
楠木:手段と目的を取り違える話っていうのはよくありますよね。例えば、ミニマリストの生活がいいんだ、と言う人たち。「俺は、持っているものを全部数えても57個しかない」と言い出すと、「俺は52個だ」となり、「俺はもう靴も履かない」となる始末。
もうこうなると、何のために生きてるのかわからなくなってしまう。ミニマリストのhow toを動画サイトで勉強して、箇条書きでミニマリストになるための方法みたいなものをまとめ始めると、もうまったく違う話になっちゃう。セムコ社のような組織に学ぼうとするときは、このような「やり方」だけに注目してしまうと本末転倒になってしまいますよね。
秦:セムコスタイルでは、重要なことが4つだけあると言っています。まずは、魅力的なビジョンがあるかどうか。次に、お客様と従業員をファンにしているかどうか。そして、お互いに学び合える、学習する組織であるかどうか。最後に、Quality of Lifeです。これは、働く人のLifestyle に合わせてWork styleが決まるということです。
例えば、主婦の方であれば、その方に合わせた働き方や報酬のスタイルが決まり、年に4カ月だけだけど、そのかわり休みなく働きたいという方であれば、そのようにWork Styleが決まるといった具合です。フラットで全員が同じように働くというのは、本来の考え方からするとありえないんです。この4つを実行していくうえでの手段が時にユニークだったりするだけで、大切なことはこの4つに集約されています。
本質を押さえれば、文化の違いは問題にならない
楠木:よく、そのやり方は日本では通用しないとか、その逆で、日本のやり方は世界では通用しないという議論を耳にすることがありますが、私はことビジネスにおいては、文化の影響はあまりないと考えています。所詮ビジネスなので、多くは合理性を求めています。この、合理性ということに文化的な違いは影響しないと思っています。
ところが、違った文化圏から見ると、文化の違いが“決定的要因”に見えるのです。1980年代に日本企業が世界で躍進しました。そのとき、世界中の企業が躍起になって日本企業を研究したのです。
結果、みんなで飲みにいく、朝は朝礼をやってラジオ体操をやる、みたいなことがまねされたんですね。現場の品質改善における問題解決なんかは、みんなで合宿をやるんだ、一緒にお風呂に入って背中を流し合うんだ、みたいに加熱していくわけです。
結果、「文化的な違いが乗り越えられなくて、まねできませんでした」となる。そんなの、日本もやってないよ!って(笑)。だから、商売ごとの本質に文化性はあまり影響しないと考えていたほうが、いい結果を生み出せるんじゃないですかね。
秦:実際、ブラジルにあるセムコ社のやり方を研究し、コンサルティングのコンテンツに仕上げたのもオランダの会社ですしね。そして、実際にオランダの会社で導入されて成功事例もあります。大切なのはやり方ではなく、どんな思想が本質的にあるのかということです。