単なるショーだった「逃亡ゴーン会見」の舞台裏 関係者が拍手する政治集会のような雰囲気

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そうして集めた質問に対し、ゴーン氏は英語、フランス語、アラビア語、ポルトガル語という4つの言語で対応。会場には、ゴーン氏の家族や友人のためにも2列の「関係者席」が用意されていた。妻のキャロル氏はもちろん、彼のレバノンの弁護士であるカルロス・アブ・ジャウデ氏、フランスの弁護士の1人であるフランソワ・ジムレ氏、そして時には、彼のレバノンの友人が、彼の回答に拍手しており、まるで政治集会のような雰囲気に包まれていた。

会見後、ゴーン氏は主にテレビメディアの単独インタビューを受けた。フランスはTF1、M6、France24、そしてCNNフランスの4媒体だ。France24は多言語放送をしており、ゴーン氏はアラビア語と英語を含めた3つの言語でインタビューを行ったという。

目新しいことは語られなかった

フランスメディアの反応はおおよそ肯定的だ。筆者が話した記者のほとんどが、ゴーン氏のショーマンとしてのパフォーマンスに感心していた。しかし、当初からこの事件を追っているジャーナリストたちは不満げだった。結局、何一つ目新しいことが語られなかったからだ。「レバノン政府に迷惑はかけられない」として、陰謀を企てた日本の政府関係者の名前を挙げることもなかった。

また、今回、日本のメディアの参加が限られていたことについて、「締め出したつもりはない」「中立的なメディアを選んだ」としたゴーン氏だが、2時間以上にわたって日本の司法制度を批判するのであれば、もっと日本のメディアの参加を許すべきだっただろう。この日、日本メディアから受けた質問はわずか2問だった。

一方、この日、世界で最もゴーンに関心を寄せなかったのはレバノン人かもしれない。深刻な経済危機に陥っているレバノンでは、「貧困だけでなく、国の一部では飢餓問題も出てきており、ゴーンを気にしている余裕がない」と、弁護士でエコノミストのカリム・ダハール氏は言う。

今回のショーが外国メディアに残したもの。それは、日本の刑事司法制度とゴーン、両方に対する不信感かもしれない。

レジス・アルノー 『フランス・ジャポン・エコー』編集長、仏フィガロ東京特派員

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Régis Arnaud

ジャーナリスト。フランスの日刊紙ル・フィガロ、週刊経済誌『シャランジュ』の東京特派員、日仏語ビジネス誌『フランス・ジャポン・エコー』の編集長を務めるほか、阿波踊りパリのプロデュースも手掛ける。小説『Tokyo c’est fini』(1996年)の著者。近著に『誰も知らないカルロス・ゴーンの真実』(2020年)がある。

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