一方で、高校野球の現場からは大甘の「1週間500球以内」でさえも猛反対する声が大きかった。
9月21日の第3回有識者会議の前に開かれた都道府県高野連理事長との意見交換会では「球数制限」の導入に反対する声が相次いだ。
このとき医療関係の有識者会議のメンバーが「うちの病院にどれだけ多くの肩、ひじを痛めた選手がやってくるのか知っているのか」と反論し、会場は騒然となった。有識者会議座長の中島隆信慶應大学教授は「時代が変わる中で高校野球は変わらなければならない」と理事長たちを説得し、「1週間500球以内」を提言に盛り込むことができたという。
日本高野連の理事会でも、最終的には「全会一致」にこぎつけたが、その過程でも多くの異論があったという。
「投球過多」も「燃え尽き」も明確に否定するユニセフ
筆者が痛感するのは「情報の乏しさ」と「議論の浅さ」だ。
昨年末に高校球児に「球数制限」について話を聞く機会があった。彼らの多くは甲子園には縁がない「普通の野球部」の生徒だったが、それでも多くが「球数制限」に反対だった。
「ケガをするかもしれないけど、最後まで投げたい」
「せっかく苦しい思いをして投げたのだから燃え尽きたい」
と言った。しかしそういう彼らも大半は、大学へ行っても野球を続けたいというのだ。彼らはこの矛盾に気づいていない。また、いくつかのメディアが実施した高校野球監督へのアンケートでも大半が「球数制限に反対」の意向を示した。その理由として「数字の根拠がない」「子供たちの思いどおりにさせてやりたい」などが並んでいた。
2018年11月にユニセフ(国連児童基金)と公益財団法人 日本ユニセフ協会は、ユニセフ 『子どもの権利とスポーツの原則』を発表したが、ここに 「子どもの身体的及び精神的な健康を守る」という条項がある。
ユニセフは、「投球過多」も「燃え尽き(バーンアウト)」も明確に否定している。これが世界の少年スポーツの趨勢なのだ。
また1人の投手にマウンドを任せ「燃え尽きさせたい」とする一方で、二番手以下の投手には「燃え尽きる」どころか、登板の機会さえ与えない現状について、指導者たちはどう考えるのか。「勝利」のために一握りの高校生に無理をさせる一方で、その他の高校生には、挑戦の機会さえ与えないような選手起用が、果たして「教育」といえるだろうか?
日本の高校野球は、こうした問題に対してもっと議論を深める必要がある。「球数制限」の問題も「勝利至上主義」ではなく「子供の将来」を教育者の視点で考える道筋で捉える必要があるだろう。
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