このため、2020年度予算では、歳出が抑制される中で増税が行われるので緊縮財政が続くと見るのがより正確だろう。つまり、「過去最大規模」「100兆円」という2つのワードを強調するメディアは的外れである、というのが筆者の考えである。
12月12日のコラム「安倍政権の対策では、ほとんど経済成長しない」
で、12月初旬に政府が発表した「安心と成長の未来を拓く総合経済対策」において公的支出は13兆円の規模だが、これが日本の経済成長率を高める可能性は極めて低い、とした。また、同様の大規模対策となった2016年8月の経済対策によって、その後の政府支出の伸びが全く高まらなかったことを紹介した。こうなる理由の一つは、補正予算で事業規模が増えても、その影響で当初予算ベースの歳出が減ることである。
建設業などに恩恵が偏る歳出拡大は資源配分を歪める
そして、筆者の予想どおり、12月の経済対策で公共投資が上積みとなったため、2020年度の予算では公共工事関係費は前年から減額になった。なお、消費増税によって家計の実質所得が目減りする個人消費への悪影響を、建設業などに恩恵が偏る歳出拡大で対応する政策は資源配分を歪める弊害が大きい。このため、当初予算で公共投資を減らすことは問題ではないとしても、個人消費の落ち込みへの手当として、低所得者向けの社会保障関連などの歳出を拡大させる余地が大きいと筆者は考えている。
いずれにしても、大規模な経済対策を発表しても、政府による歳出上乗せが実現しなければ、先に述べたとおり2020年は増税によって緊縮財政となる。2%インフレの早期実現のために、金融財政双方において景気刺激的な運営が求められるとすれば、これは大きな問題である。
アメリカでは、著名経済学者であるラリー・サマーズ教授が2013年に長期停滞論を唱え始め、政府による歳出拡大の必要性を訴えている。長期停滞論そのものに対して筆者は懐疑的に考えている部分がある。ただ、同氏が2013年に主張した後、先進国の中で経済正常化が最も進んだアメリカでも、極めて低い金利とインフレ率が長期化したままである。同氏が主張する拡張財政政策には説得力があり、その慧眼に感服せざるを得ない。さらに、アメリカの大物経済学者であるオリビエ・ブランシャール元IMFチーフエコノミストは、国債金利が名目経済成長率を下回る場合に、総需要を増やす財政政策が必要であり、特に日本は長期停滞に陥っているため金融・財政政策でテコ入れする必要がある、と主張している。
これらアメリカの一流の経済学者の提言は、日本の経済政策運営には残念ながらほとんど生かされていないと言える。標準的経済理論を軽視した政策運営が続くため、オリンピック・パラリンピックを迎える2020年の日本経済は長期停滞から脱することは極めて難しいと筆者は予想している。そして、従来から当コラムで指摘しているが、現在の経済政策運営が安倍政権の政治的土台を揺るがすリスクが高まるとみている。
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