「命がけの落書き」に映る2019年香港デモの現実 この1年いったい香港で何が起きたのか?

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11月後半になると、激化していたデモ隊と警官隊との衝突はいったん落ち着いたかのように見えた。

白で描かれた「親中派に一票たりとも投じるな」に何者かが黒スプレーで追記し「親中派に全ての票を投じよう」と書き換えているように見える(2019.11.23筆者撮影)

大学を拠点にした抗議活動で多数の逮捕者が出たこともあるが、11月24日に開催される区議会議員選挙を無事に実施させよう、という動きが活発になったためだ(今回の選挙は、直前まで「政府が安全上の理由から中止するのではないか」とみる向きもあった)。

落書きの内容も、選挙に向けた内容に変化。「一票を投じなければ、香港人ではない」など、選挙への意気込みを示すものが多く見受けられるようになった。

選挙の意気込みを示すように

選挙は無事に実施され、投票率は約71%と中国返還以来、過去最高となった。民主派が全議席452議席の8割を超える388議席を獲得して圧勝した。この選挙はあくまで区議会選であり、地方選の位置づけだ。そのため、普通選挙制度を求める民主化デモは、今も続いている。

銅鑼湾駅直結の高架橋の外側に貼られたアメリカ国旗も、翌日(右)には剥がされている。ちなみに、外側に足場は一切ない(2019.12.10、12.11筆者撮影)

11月27日(現地時間)には、アメリカのトランプ大統領が「香港人権・民主主義法」に署名し、同法が成立。香港では、デモ隊がアメリカ国旗を掲げて支援を求める姿も見受けられるが、現地ではその実効性を疑問視する声もある。

「光復香港 時代革命」は香港内の至る所に描かれ続けているスローガンだ(2019.12.10筆者撮影)

政府統計によると、2019年3四半期(7〜9月)の成長率は前期比でマイナス3.2%となり、10年ぶりのリセッション(景気後退)に突入した。

香港島エリアで働く香港人女性のジェニーさん(仮名)は「来年も景気回復に至るとは思えない。SARSやリーマンショック、雨傘運動の時よりも長期的な景気後退が考えられる。その中でいかに自分や家族の生活を守るか課題だ」と話した。すでに2020年の元旦にも、香港島銅鑼湾エリアで大規模なデモ行進が計画されている。収束はまだ見えない。

富谷 瑠美 香港在住コラムニスト

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とみや るみ / Rumi Tomiya

2006年早稲田大学法学部卒。アクセンチュアで全国紙のITコンサルティングを担当したのち、日本経済新聞電子版記者、リクルートグループの編集者を経て、子連れで香港に移住。Twitterはこちら。

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