小林武史「生きる実感を得るためにできること」 音楽プロデューサーが本気で挑む第二の活動

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小林武史さん(撮影:梅谷秀司)

――「ap bank」設立の目的は何だったのでしょうか。

 目的は、自然エネルギー開発や環境保全の活動をしている個人や組織に、「ap bank」から融資をして、少しでも後押しをすることでした。

最初は、上限500万円、年利1%で、100件くらいの融資からはじめました。「ap bank」は、利益を上げるためのビジネスではないので、ギリギリ回していければいいかな、という感じでしたね。

ただ、融資先が増えるにつれて、このままでは運営資金が足りなくなることがわかってきました。例えば北海道の人から融資の申し込みが来て、「会ってみないとわからないから面談しましょう」となった場合、旅費をどちらが持つのか、という事態が出てきます。

もし、僕たちがポケットマネーを使い続けていたら、いずれは尽きてしまう。そこで、「ap bank」の活動資金を得る仕組みとして音楽フェス、「ap bank fes」をスタートしたんです。

2005年に初めて「ap bank fes」を開催した時のことはよく覚えています。僕らがやろうとしていることが、3日間で6万人ほど集まってくれたみんなにしっかりと伝わっていることがわかりましたから。あの感覚は今も忘れられません。

テーマは「いのちのてざわり」

――「僕らがやろうとしていること」というのは、具体的には?

持続可能な循環型社会をつくること。命の連鎖に対する感謝の気持ちを持つこと。地球にあふれかえるゴミをできる限りリサイクルしていくこと。そういったことです。一見、きれいごとのように思われるかもしれないけど、有志によるボランティア的な音楽活動を通じて本気度を伝えたかったし、カタチにしていきたい。そういう僕らの思いに対して、「みんなわかってくれているんだ」と強く実感できたんです。

――2017年からは、音楽とアートを融合した「Reborn-Art Festival」の総合祭も宮城県で開催していますね(2016年にプレイベントを開催)。

音楽業界だけでなくどの業界も、今は何もかもがマーケティングありき。似たようなものや、わかりやすい単純化された商品ばかりで、結果が見えやすくなっていますよね。そういうつまらない状況の中で、楽だからとそっちに流されていく人間は、感情が劣化していると言っている社会学者もいるほどで。もっと言えば、退化していると思いますけど。

でも僕らは、生き物としての豊かな感性や感情を忘れずに生き抜いていきたい。そういう思いを、音楽だけでなくアートも含めて、大震災の後から生まれ変わった宮城県から発信していきたかったんです。

2019年夏に開催した「Reborn-Art Festival」のテーマは「いのちのてざわり」。経済優先で物事が進んでいく社会の中で、“生きる実感”のようなものをもう一度取り戻してほしい、という思いを込めました。

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