「知的・精神障害者」の知られざる働き方の実態 3つの事例から見る労働問題の「一断面」とは

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「おはようございます。今日もよろしくお願いします!」――。ダイレクトメールの封入・発送を手がける株式会社キューピットワタナべ(東京都昭島市)本社の2階。午前10時、朝礼が始まる。

約20人の従業員の前で号令をかけるのは、重度の自閉症の男性(43歳)。1994年に特別支援学校を卒業後、入社し、26年間にわたり正社員として勤務する。

「決まり文句を発するのが、好きみたい。仕事についての会話をするのは難しい。ダイレクトメールの封入のような単純作業にはこだわりがあるようで、黙々と丁寧に取り組む。スピードは健常者の10分の1ほどの場合もあるが、集中力を持続させるところがすばらしい」(渡辺英憲社長)

親と会社だけでは障害者を守れない

単純作業をしているときにほかの作業をするように指示をされると、両手を動かし、抵抗する。不満な表情となり、トイレの中に入り、しばらくこもることもあったようだ。その場合は、数人でなだめていすに座らせる。男性は、画用紙と鉛筆を手にすると、五十音順や三日月から満月までの満ち欠けを描くことが多く、落ち着くと作業場に戻る。

自閉症の男性は与えられた作業に黙々と取り組む(写真:キューピットワタナべ)

渡辺道代会長は「(労働法を順守する以上、男性が)作業ができない間の時間にも、賃金を支払う。弊社のような小さな会社ではそれが繰り返されると難しい時期もあった」と26年間を振り返る。

同社は、福祉施設で障害者支援に携わっていた渡辺会長(当時は社長)が1987年に創業した。当初から身体・知的・精神障害者を雇い入れる。これまで15人以上を採用してきたが、ほとんどが本人や家族の事情や考えにより数年で退職。現在、正社員とパート社員を合わせた従業員は21人。うち障害者が1人のみで、それが前述の男性だ。

男性は、1人で電車とバスを乗り継いで30分ほどかけて出社する。遅刻や無断欠勤、早退はほとんどない。2016年までは週5日フルタイム勤務(午前9時~午後5時、残業はなし)だが、社長と両親との話し合いで週4日勤務にした。本人の肉体的な負担を減らすためだ。両親とは2カ月に1度は会い、男性の就労について意見を交わす。電話での連絡は頻繁に取り合う。

「(男性の)老化のスピードが健常者よりも速いように感じる。両親も70代となり、健康面の不安を抱える。国や自治体の高齢の保護者への支援策が十分とは思えない。親と会社だけで障害者の雇用や暮らしを守ることはもはや難しい」(渡辺社長)

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