「おもてなし」が日本を救う? ホスピタリティ産業のトップが語る「おもてなし」
就業規則と仕事の規範はまったく別物
高野:それはすばらしいですね。リッツ・カールトンの展開は、数年後には世界で100軒ほどになりますが、クオリティを維持することは、ものすごく大変になってきていると思います。
親会社のマリオット・インターナショナルは、すでに3000軒を超えるホテルを運営しています。この企業規模になると、サービスの水準を維持するためには、マニュアルが不可欠になりますね。あらゆる場面でのマニュアル化が進んでいます。50万人くらいの社員がいますから、当然といえば当然です。マリオットのマニュアルはすばらしいですよ。たとえば、身体障害者に対してのサービスマニュアルや、障害をもった人を採用した場合の就労マニュアルなど、きちんと整備されています。リッツ・カールトンでも随分と参考になった部分ですね。
サービスを維持するためのプロセス作りはすばらしいのですが、でもやはりリッツ・カールトンとの違いはある。その違いは何かなと考えていくと、マニュアルに対する考え方だと思うのです。リッツ・カールトンは、マニュアルがサービスの型を作り、次にその型を超えていくための入り口がホスピタリティであるととらえているんですね。これは企業文化、企業風土的なものですから、価値としてきちんと認知されていないと、文化としては形成されないのではないでしょうか。リッツ・カールトンが規模の展開を抑えて、こだわってきた理由がそこにあるのです。
それともうひとつあります。「品位と規範」。英語の「DIGNITY」がいちばん近いニュアンスですね。スターバックスの働き方からも感じるのですが、これは、リッツ・カールトンがとても大事にしてきた概念です。たとえば、就業規則と仕事の規範はまったく別物です。始業が9時で、終業が5時という就業規則があるとします。そのとき、9時2分前に飛び込んできた社員を、規則上はとがめることはできないわけですよ。「もう少し早く来られないのか、君」と言っても、「2分前に来ています。それが何か?」で、課長が撃沈です(笑)。就業規則とはそういうものですね。
でも、仕事のプロとして自分はどうありたいのかを考える環境があると、人は規則に縛られる働き方から、規範にのっとった働き方を目指すようになる。2分前に飛び込んでくるのはマズイなと気づく。9時にみんなが気持ちよく仕事を始めるためには、自分は何をすべきだろう、そのために必要な時間はどのくらいだろうと考える。すると、20分くらい前にきて、環境整備をしようと考えるようになる。規則ではなく、仕事をするプロとしての規範で物事を考えるようになる。自分の意識をそこにシフトすることから、成長が始まり、人としての品格も生まれるのではないかと思うのです。
そのとき、気をつけないといけないのは、「規範にのっとって働きなさい」などとスローガンを掲げたりすると、これまた規則になっちゃうんです(笑)。人の可能性というものを、余裕をもってどこまで信じることができるか、これがリーダーの規範といえるかもしれませんね。
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