「PISA読解力低下」は子どもたちからのSOS 日本の教育のために大人が気づくべきこと

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もちろん、これまでの国語教育で重視されてきた文脈や行間や、その文章が書かれた背景を知ることも、文章をより深く理解するうえでは必要でしょう。ですが、行間をくみ取る前に、「行中」を読めるようになるためには必ずできなければならないことがある。それが、文の作り(構文)を正しく把握したり、「と」「に」「のとき」「ならば」「だけ」「以外の」など、機能語と呼ばれている語を正しく使えるようになることなのです。

「たくさん本を読ませれば、文の読み方など、自然に身に付くのでは?」と思うかもしれません。もちろん、本をまるで読まないよりは読んだほうがいいに決まっています。

ですが、本、それも良質の児童書を読むには、その前の段階で十分な語彙と機能語の使い方を身に付けている必要があるのです。「僕がするよ」と「僕はするよ」、「毎日飲む」と「一日おきに飲む」等を最低限でも使い分けられないと、『くまのプーさん』や『大きな森の小さな家』を読みこなすことはできません。

2016年から2017年にかけて実施したRSTでは、同時にアンケート調査も行いました。たくさんの質問項目がありましたが、その中に、「読書は好きですか?」という項目があり、「好き、やや好き、どちらでもない、やや苦手、苦手」の5段階で回答してもらいました。主に読む本の分野も尋ねました。

その結果、RSTの能力値と読書の好き嫌いや、主として読む本の分野の間には、相関は見られなかったのです。この結果に疑問をもつ研究者は多いらしく、広島大学の研究チームもRSTを受検した東広島市の学校で同様のアンケートを実施したそうですが、読書好きか否かとの間に相関は見られなかったようです。

機能語がわからないとAIに負ける

まとめると、こうなります。

日本で育った日本人は、小学1、2年生で(読み障害がなければ)ほぼ全員が簡単な字の読み書きはできるようになります。小学生は発達にかなりの差があります。鏡文字を書いたり、「でんしゃ」「しゅっぱつ」などの読み書きがなかなかできるようにならなくて、親を心配させる子も珍しくありません。でも、だいたい2年生の後半から3年生にかけてそろってきます。

むしろ心配すべきなのは、家庭環境や地域によって語彙量に相当の差があることです。加えて、小学3、4年生あたりで、本や教科書の読み方や、板書の読み方に決定的な差が生まれ始めます。それは、機能語の部分を正確に読む子とそうでない子の差です。

機能語を正確に読みこなせないと、教科書を読んでもぼんやりとしか意味がわかりません。そうすると、暗記やドリルに頼るようになります。意味を理解しない暗記でも、小テストや中間テストなどはうまく切り抜けることができることがあります。

その成功体験とともに彼らは中学に進学します。そういう生徒は、例えば歴史の教科書を読むときに、キーワードの群――AI用語では「bag of words(言葉がバラバラに放り込まれた袋)」――として捉えようとします。

例えば、「徳川家光、参勤交代、武家諸法度、鎖国」のように。私は、この読み方を「AI読み」と呼んでいます。AIがまさにそのように読む特性があるからです。AI読みでも、定型的なストーリーならば、それなりに追うことができます。だから、RSTの能力値と読書の好き嫌いとはそれほど相関が出ないのかもしれません。

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