貧しくても「読む力」があれば世界は変わる ブレイディみかこ×新井紀子「教育」を語る
「ああなっちゃいけない」という強い思い
新井紀子(以下、新井):ブレイディさんと私は同世代で、同じタイミングで日本を飛び出していますね。私は1984年に、経済が最悪だったレーガン時代のアメリカに、ブレイディさんはサッチャー時代のイギリスに。ですから、バブル世代のはずなのに、まったく恩恵を受けていませんよね。
ブレイディみかこ(以下、ブレイディ):全然、受けていないです。
新井:作品を拝読していると、私たちは出発点に共通点があって、社会に対する見方や関心の持ち方が似通っているのを感じます。
アメリカに到着していちばん驚いたのは、世界一豊かだと思っていた国の惨憺(さんたん)たる状況でした。マイナス20度にもなる厳寒の冬でしたけれど、毎週のように銀行が閉鎖され、住宅ローンが払えなくなって家から追い出された人たちが、ビュイックやカマロみたいな高級車の中で凍死している。そういうニュースを聞いて、本当に驚きました。
レーガン大統領が猛烈に推し進めた新自由主義の経済政策の恐ろしさをリアルに体験したんです。とくに、1ドル=270円ぐらいだった円が、あれよあれよという間に100円ぐらいになってしまい、親からもらったなけなしのおカネが3分の1に減っちゃったのはこたえました。
もちろん、それでアメリカ経済は持ち直したともいえますけれど、その犠牲となった人たちのことや、自分自身の貧しかった暮らしを思うと、「ああなっちゃいけない」という気持ちがすごく染みついているんです。