貧しくても「読む力」があれば世界は変わる ブレイディみかこ×新井紀子「教育」を語る

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私はブレイディさんのファンで、デビュー作の『花の命はノー・フューチャー』(2005年、碧天舎)から読み始め、『子どもたちの階級闘争』(2017年、みすず書房)など一連の作品を読み続けてきましたが、ご指摘されていることはまさに私がアメリカで見てきたことに近く、そして、今後日本でも起こりうることだと思っていました。

そういう中で、イギリスで、アイルランド人と日本人の夫妻の子どもとして生まれたブレイディさんの息子さんが、カトリックの名門中学に進学する選択肢もあったのに、あえて地元の「元底辺」中学に入学して成長していく姿を描いた、最新刊『ぼくはイエローでホワイトで、ちょっとブルー』(2019年、新潮社)を拝読して、彼のような人に未来を託したいという非常に強い思いを持ちました。

日本では、今、学習習熟度別の教育にしたほうが効率的ではないかというような議論がありますが、私はそれは嘘じゃないかと思っています。

彼が多様なのは、頭の中に多様性があるからではなくて、体の多様性だと思います。それは何も国際結婚で生まれてきたからということではなく、日々の生活の中で直面する問題を解決していかなければならない多様な環境の中で、リアルに身に付けた多様性ですから、そういう人物こそが、多様性の度合いを高めていくこれからの社会で起こる問題を解決しうる人材となるだろうと思いました。

ブレイディさんは福岡の公立の有名進学校のご出身ですよね。私は、そのような地方の公立進学校の復活が重要だと思っています。多様性のある地元の公立小中学校を経て、公立の進学校から大学へと進んだ人たちが、例えば、本を書くとか政治に関わるとか、NPO法人を作るとか起業するとか、そういうことが日本を救うのであって、地方の現状を知らない東京の中高一貫校を出たような人が官僚になっても問題解決は難しいと思うのです。

私ばっかり、お話ししてしまってごめんなさい。ブレイディさんのファンですから、つい熱くなってしまいました。

自学自習できる力が世界を変える

ブレイディ:ありがとうございます。私も新井さんの『AIに負けない子どもを育てる』を読ませていただいて、すごく面白いと思いました。まさに、今、お話しになられたように、世の中を回している人たちがマリー・アントワネットだらけになってしまったらよくない、ということが書いてあると思いました。EU離脱の議論のときにも盛んにいわれていましたけれど、為政者には、私たちのような地べたで生きている人間の感覚が全然わからなくなっています。

ブレイディみかこ:保育士・ライター・コラムニスト。1965年福岡市生まれ。県立修猷館高校卒。音楽好きが高じてアルバイトと渡英を繰り返し、1996年から英国ブライトン在住。ロンドンの日系企業で数年間勤務したのち英国で保育士資格を取得、「最底辺保育所」で働きながらライター活動を開始。2017年に新潮ドキュメント賞を受賞し、大宅壮一メモリアル日本ノンフィクション大賞候補となった『子どもたちの階級闘争――ブロークン・ブリテンの無料託児所から』(みすず書房)をはじめ、著書多数(撮影:尾形文繁)

私たちが何を考えているのか、何が不満なのか、どこまで緊縮財政で苦しめれば気が済むのか、私たちにも限界というものがあることがわからない。為政者はオックスフォードやケンブリッジを卒業したような人ばかりで、彼らのサークルの外の人々のことをまったく知らない人が多くなっているからです。縦の軸の多様性のない集団です。

ブリティッシュロックでは、スミスやオアシスなんかが階級を歌っています。ロックは労働者階級の歌です。そういう労働者階級の出身者から、政治をやったり、経済人になったり、文化を作ったりする人が再びたくさん出てこないと、イギリスは変わらないと思います。でなければ、社会の乖離や分断は進む一方。もうEU離脱のゴタゴタを通じて、そのことを経験してますけどね。

ですから、親に資本がなくても自学自習ができるっていうことは大切で、そのためには、リーディングスキルがなきゃいけない。

でも、私、この本のテストをやってみたんですけど、1問間違えちゃいました。

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