貧しくても「読む力」があれば世界は変わる ブレイディみかこ×新井紀子「教育」を語る

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ブレイディ:イギリスではブレア政権時代に幼児教育の大改革をやったんです。リベラルな人たちは反対しましたけど、「Early Years Foundation Stage(EYFS)」というゼロ歳児からのすごいカリキュラムをつくりました。読み書きや簡単な算数、社会性、身体の成長まで含めた細かなカリキュラムです。

保育士の仕事も、ケアラーだったのがエデュケーターに変わりました。そのとき、導入されたのがオブザベーションです。見守りということですけど、ただ見ているのではなく、子どもを観察して、何ができた、何を言った、何に関心を持った、どんな反応を見せた、ということを観察して、EYFSが達成できるように、子どもの遊びなどをデザインしていく。そういうことが保育士の仕事になりました。

そういう中で私たち保育士に求められていたことが、新井さんのご著書に書いてあった「幼児教育のあり方」とまったく同じで、驚きました。

新井:そうなんですか。

ブレイディ:「幼児の権利」のところで、例えば、幼児期には身近な大人同士の長い会話を聞く機会を増やせと、書いておられますけど、EYFSのカリキュラムにも同様のことが書かれていて、私たちもたまには保育士同士の会話も聞かせます。

絵本を繰り返し読み聞かせることや、子どもが守られているという実感を持てるようにすることとか、「ごっこ遊び」が大切だとか、自然に接する時間をとることが大事だということとか、本当に、同じことがイギリスのカリキュラムにも書いてあります。

多様性の核心は貧富の差

ブレイディ:最初に多様性のことをおっしゃいましたが、私は多様性の核心は貧富の差や格差だと思います。ところが、日本では、失われた20年といわれて、これほど一般庶民が貧困化しているのに、いまだに、多様性というと外国人とか移民とかジェンダーとかLGBTのことだと思っていますね。イギリス人が持っている格差意識というか、階級意識というか、そういうものがないのが不思議です。

新井:私はそれがいちばん大きな問題だと思っています。

ブレイディ:格差が多様性に入るということにも気づいていないんだと思います。

新井:イギリスの、例えば労働党支持者のいいところは、「自己責任」だなんて思っていないところです。

ブレイディ:そうそう。

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