貧しくても「読む力」があれば世界は変わる ブレイディみかこ×新井紀子「教育」を語る

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新井:政府が悪い、社会が悪い、と考えます。その良しあしは別として、何でも自己責任だと思わされてしまうと、1人ひとりが砂粒みたいにばらばらになって、結局、統治者の言いなりになってしまいます。そこを、「それは社会が悪い」と言い続けているのは、やっぱり偉いと思うんです。

日本では、例えば、成功したお笑い芸人みたいな人までが、「それは自己責任だろう」と言っちゃうわけです。「俺は努力して成功した。やれなかったやつは自己責任でしょう」って。だから、日本の芸人はロックじゃないんだよね。

「一億総中流」は幻想だった

ブレイディ:私の夫もそうですが、労働者階級っていうのは、それをまとって生まれてきたら一生脱げないものだと思っています。

だから、どんなに出世してお金持ちになっても、どんなに有名なスターになっても、自分は労働者階級だって言うんです。それは、つまり、格差があるのは、自己責任ではなく政治や社会が悪いということです。

新井:それが、日本では、政治の責任だと言えばいいのに、自己責任だ、となっちゃいます。

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ブレイディ:何でしょうかね。

新井:日本は敗戦で一度全部チャラになって、その後の高度成長期に、「頑張ればみんな豊かになれる」という風情があったんだと思うんです。それが逆によくなかった。それが「一億総中流」という幻想を生みました。

ブレイディ:絶対幻想ですよ。うちは中流ではありませんでした。貧乏でしたからね。私はその外にいると思っていました。

新井:「一億総中流」というときに、「いや、うちは違います」は言っちゃいけないことだったんですね。それがよくなかったと思います。

(構成:岩本 宣明)

ブレイディ みかこ ライター・コラムニスト

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Brady Mikako

1965年福岡市生まれ。県立修猷館高校卒。音楽好きが高じてアルバイトと渡英を繰り返し、1996年から英国ブライトン在住。ロンドンの日系企業で数年間勤務したのち英国で保育士資格を取得、「最底辺保育所」で働きながらライター活動を開始。2017年に新潮ドキュメント賞を受賞、2019年『ぼくはイエローでホワイトで、ちょっとブルー』でYahoo!ニュース|本屋大賞2019年ノンフィクション本大賞、毎日出版文化賞特別賞などを受賞。他の著書に『労働者階級の反乱』『女たちのテロル』『ワイルドサイドをほっつき歩け』『ブロークン・ブリテンに聞け』などがある。

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新井 紀子 数学者

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あらい のりこ / Noriko Arai

国立情報学研究所教授、同社会共有知研究センター長。一般社団法人「教育のための科学研究所」代表理事・所長。
東京都出身。一橋大学法学部およびイリノイ大学数学科卒業、イリノイ大学5年一貫制大学院を経て、東京工業大学より博士(理学)を取得。専門は数理論理学。2011年より人工知能プロジェクト「ロボットは東大に入れるか」プロジェクトディレクタを務める。2016年より読解力を診断する「リーディングスキルテスト」の研究開発を主導。主著に『数学は言葉』(東京図書)、『ロボットは東大に入れるか』(新曜社)、『AI vs. 教科書が読めない子どもたち』(東洋経済新報社)などがある。

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