定時に帰ったことは1度もない
「ああ、あなたが有本さんですか」。何気ないあいさつに、はらわたが煮えくり返る思いがした。
今から10年ほど前。有本ケンジさん(仮名、59歳)は、病院のリネンサプライ業務を請け負う会社の契約社員として働いていた。時給は最低賃金レベル、休憩も取れない、残業代は出ないなど、待遇は最悪。勤続5年を機に、地域ユニオンに加入し、会社と団体交渉を行うことにした。
「あなたが――」発言は、第1回目の団交で、会社幹部たちが初対面のケンジさんにかけた言葉である。会社幹部が社員1人ひとりの顔まで覚えるのは難しかろうと、頭ではわかっていたが、「俺はてめえらのために、飯も食わねぇで働いてんのに、てめぇらは俺の顔も知らねえのかと思うと、頭にきちゃってねえ」とケンジさんは言う。
ケンジさんの職場は、東京都内にある大規模病院だった。社員十数人のうち、1人は男性正社員の上司、そのほかは女性のパート労働者。仕事は、シーツやタオル類などを回収し、外部の洗濯工場に搬出したり、院内の設備で洗濯したりすることだった。
ケンジさんによると、当初病院は開院直後で、実際に患者を受け入れていたベッドは全体の半分。その後、稼働ベッド数は増えていったが、職場の人数は変わらなかった。業務量は1.5倍、2倍となっていくのに、人が増えないとあっては、現場は修羅場にもなるだろう。
「勤務時間は午前8時半―午後5時だったけど、時間内に終わるわけがない。6時半に出勤したこともあるし、定時に帰ったことなんて1度もないよ。しかも、タイムカードを正直に押してたら、すぐに本社から『残業が多すぎる』って文句言われてね。(実際に出退勤した時刻に)タイムカードを押すのは、3日に1回くらいに減らしたんだけど、給与明細を見たら、会社はそこからさらに(残業時間を)ちょろまかしてきたんだよ」
毎月の給与は約13万円。まれに残業代が付くと14万円ほどになったが、ケンジさんに言わせると、実際の残業時間はもっと多かった。ケンジさんの告発は続く。
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