1人で組合に加入した59歳男性が受けた仕打ち 残業代の支払いや時給のアップを要求した

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最近の労働争議や労働裁判のニュースを見ても、ネットを中心に、労働組合に入って解雇や雇い止めと闘う働き手をバッシングする声が目立つ。本来、労働関連法に照らして違法か合法かを判断すべき問題なのに、「本人の能力が足りなかったからでは?」「別の会社で働けばいいのに」「権利ばかりを主張したら人間関係が壊れる」など、どうにも筋違いの意見が少なくない。

労働組合には、ホイッスルブロワー(内部告発者)としての役割もあるといわれる。ケンジさんも関わった郵政の職場は今、かんぽ生命保険の不適切販売をめぐって揺れている。私見ではあるが、JP労組が労働組合として適切に機能していれば、もっと早い段階で何らかの自浄作用が働いたはずだ。

最近、ある新聞で、中曽根康弘元首相が、ジャーナリストの牧久さんのインタビューで、国鉄の分割・民営化について「戦後の労働組合の運動に歯止めをかけるのが目的だった」と話していたと、書かれているのを読んだ。労組の弱体化を狙ったわけだが、結果としては、やりすぎだったのではないか。働き手から搾り取りたい会社や、不祥事を隠したい会社にとって、都合のよい企業内労組を増やすことにつながってしまったようにもみえる。

完全な敗北とも言えないが、勝利とも言えない

ケンジさんは現在、引っ越しや造園業などの日雇いバイトと、時々、知人から紹介されるテキ屋の仕事で食いつないでいるという。テキ屋となると、中には暴力団関係者もいるから、そこは、堅気のケンジさんが店番として重宝されるわけだ。

「店じまいの時間が延びたりすると、『今日は色付けといたから』と言って、ちゃんと余分に金をくれる。今まで俺が働いてきた会社の連中より、よっぽど人情味があるよね」

ケンジさんは今もユニオンに籍を置き続け、時々、相談者に自らの経験などを話している。往時の団体交渉で、熱くなるケンジさんの横でいつも冷静だった書記長や、さりげなく気を配ってくれた委員長が好きなのだ、という。自分の問題が解決すると、すぐに辞めてしまう組合員が多い中で、ケンジさんは、ユニオンにとっても貴重な人材である。

リネンサプライ業を請け負う会社は、その後、着実に業績を伸ばし、最近、一部上場を果たした。一方のケンジさんは会社を去った。労働組合での闘いは、完全な敗北とも言えないが、勝利とも言えない。そんな結果を、どう受け止めているのか。ケンジさんは屈託なく笑い、こう答えた。

「有休とか、時間外手当とか、勉強にもなったしさ。何より、泣き寝入りは性に合わないんだよ」

本連載「ボクらは『貧困強制社会』を生きている」では生活苦でお悩みの男性の方からの情報・相談をお待ちしております(詳細は個別に取材させていただきます)。こちらのフォームにご記入ください。
藤田 和恵 ジャーナリスト

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ふじた かずえ / Kazue Fujita

1970年、東京生まれ。北海道新聞社会部記者を経て2006年よりフリーに。事件、労働、福祉問題を中心に取材活動を行う。著書に『民営化という名の労働破壊』(大月書店)、『ルポ 労働格差とポピュリズム 大阪で起きていること』(岩波ブックレット)ほか。

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