「デジタルの恩恵」はGDPとは別の指標で捕捉を GDPが「市場の経済活動」を表すことの意味

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GDPはどれくらいのモノやサービスが新たに生産されたのかという指標であり、welfare(福利、生活の豊かさ)の指標ではない。不平等や持続可能性を反映しないこと、家庭内生産や無料サービスは原則として含まれないなどの問題を抱えていることは古くから指摘されてきた。

デジタル経済ではこうした問題が拡大している可能性が高いが、十分に反映されていない多様な要素を付け加えていく方向でGDPを改善していくのは問題がある。デジタル経済の拡大で起こっている無償労働による生産は、生産されたものの価値をどう評価すればよいか判断が難しい。環境問題や家庭内での生産活動も重要であることは確かだが、金額で表すことは容易ではない。GDPの中で、このように価値の判断が難しいものの割合が増えてしまうと、出てきたGDPの水準の意味が分からなくなる。

GDPの有用性は変わらず、指標は分けるべき

一方で、企業を中心とした経済活動で多くの人が雇用されて所得を得ているという現在の経済では、企業の生産・販売の大きな落ち込みは、企業収益の悪化、賃金・雇用の減少を通じて、家計所得を減少させて消費の落ち込みにつながるおそれがある。だからGDPという指標には大きな意味がある。

GDPにさまざまな要素を付け加えていくと、次第にGDPは市場の経済活動の変化には鈍感になっていく。リーマン・ショックのような経済活動の急速な低下を察知することが難しくなってしまい、政府や中央銀行が適切な対応を行うことが困難となるだろう。

スティグリッツらは、GDPのさまざまな問題点を指摘した上で、市場における経済活動について多くの情報を持っており有用性は変わらないと指摘している(『暮らしの質を測る―経済成長率を超える幸福度指標の提案』(スティグリッツ他、邦訳:金融財政事情研究会、2012年)。

そもそも1つの指標で、社会のさまざまな活動のすべてをカバーすることは不可能だ。経済活動水準と生活水準の測定を明確に分けて、別の指標を作るべきだ。経済活動の水準を見るためのGDPは市場の経済活動を捉えることだけに純化し、デジタル経済の拡大で我々の生活が大きく改善していることは、GDPではなく別の指標で捉えるほうが良いのではないだろうか。

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