「デジタルの恩恵」はGDPとは別の指標で捕捉を GDPが「市場の経済活動」を表すことの意味

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最も難しいのはそもそもGDPとしてどのような経済活動を捕捉すべきなのかという問題だ。

いくつかの例で、デジタル経済の拡大がGDPに与える影響を考えてみよう。まず、メルカリやヤフーオークションといったネット上のフリーマーケットやネット・オークションを利用して保有する製品を売却して、現金を得る場合を考えよう。

持っていた靴をフリマで売れば現金を得ることができるので、企業が靴を生産・販売したのと同様に、ここでも所得が生まれたように見える。しかし、企業が靴を生産して販売した場合には、日本の中にある靴の数が増えるが、この場合には靴の利用者が変わるだけで、日本の中にある靴の数が増えるわけではない。消費者が企業から買った製品を転売しているだけで、新たな製品が生産されているわけではない。

SNAでは中古品(一度も使用していない、いわゆる新古品も含む)の売買は所有者が変わるだけで、何か新しいものが生産されたとは考えない。元の所有者が製品本体の売却で得たお金はGDPには計上されず、GDPに計上されるのは、メルカリや楽天などの仲介を行うプラットフォームに支払われる手数料だけだ。これは、プラットフォームが「仲介サービス」を生産しているからだ。

デジタル化でGDPはあまり増えず、むしろ縮小も

古くからある類似の取引としては中古車の売買があるが、ここでも中古車自体の売買で得られたお金は所得としてGDPに計上されることはない。計上されるのは、中古車のディーラに支払われた仲介手数料だけだ。

車は中古品でも明らかに一定の資産価値があり、中古車の売却は資産と現金が交換されただけだという取り扱いに、それほど違和感がない。しかし、洋服や靴などの中古品は以前は捨てるしかなかったが、インターネットを利用することで有料で売れるようになった。われわれが違和感を覚えるのは、以前は価値がゼロだったものがデジタル経済においては価値を持つようになったのに、この売却資金が所得とはみなされずGDPに計上されないからだろう。

また、デジタル経済の拡大によって、GDPは思ったほど増加しないだけではなく、むしろ押し下げられてしまう可能性が高い。フリマで安い中古品が売買されることで、購入者も出品者も満足度が高まったはずだし、社会的にも死蔵されていた商品が利用されることで、ゴミを減らして貴重な資源を節約したことにもなる。良いことずくめのように見える。

次ページ具体的な例で考えてみよう
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