「マトリ」に息子の薬物証拠を提出した父の覚悟

逮捕される息子を見て泣き崩れる親の胸の内

以上は、あくまでもネットが普及し始めた初期における買い手側のエピソードだが、ネット密売の大枠は現在とも大差ない。その特徴を列記すると以下のようになる。

①周辺に薬物仲間がいなくても、容易に覚醒剤等の薬物を入手可能(通常は必ず周辺者から勧められて手を染める)
②非対面方式の売買であり、匿名性も高いため、買い手に警戒感がない
③ネットショッピングと同じ感覚なので罪悪感も希薄になる
④さまざまな薬物の情報が入手できるので、多剤乱用に走りやすい
⑤周辺者が存在しないため事件が発覚しにくい。被疑者が独り暮らしの場合はほぼ外部から把握できない

サポートする人が居ることが重要

後日談だが、Wは覚醒剤、麻薬、大麻の所持などで起訴され、執行猶予付きの判決を受けている。

『マトリ 厚労省麻薬取締官』(書影をクリックするとアマゾンのサイトにジャンプします)

実は、われわれはWが数年以内に再犯に及ぶのではと心配していた。だが、Wはわれわれの心配をよそに専門病院で治療して見事に復学を果たしている。

Wの両親が真剣に更生を手助けしたことは疑いようがないが、彼女も積極的に支援している。彼女がWをクラブ活動に誘い、メンバー全員で大学生活を謳歌したとのことだ。このように「孤立させない」ことが再犯を防ぐには最も重要だ。Wは大学卒業後、担当官に電話してきてこう伝えた。

「お世話になりました。もし逮捕されていなかったら? もう大丈夫です。両親や彼女が支えてくれました。目標もできました」

このようなことが、捜査官が仕事の達成感を覚える瞬間でもある。筆者はこの度、40年近い麻薬取締官としてのキャリアを総括した著書『マトリ 厚労省麻薬取締官』を執筆した。本稿で触れたのは、長い取締官人生の1場面にすぎない。

執筆の動機は一にも二にも、薬物撲滅のためである。薬物で幸せになる者などいない。そのことを多くの方に改めて知っていただきたいと強く願っている。

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