「マトリ」に息子の薬物証拠を提出した父の覚悟 逮捕される息子を見て泣き崩れる親の胸の内

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すると、さっきまでの勢いはどこへやら、Wはすっかり黙り込み、それどころか震えが止まらなくなった。そんな息子に父親は毅然とした態度で語りかける。

「そうだ! 俺が麻薬取締官に相談した。お前のためだ。覚醒剤をやって何になる。このバカ野郎!」

前回記事でも触れたが、この父親のように、薬物に溺れた子どもに正面から対峙するケースは珍しい。多くは、「自分たちが麻薬取締部に相談したことは内緒にしてほしい。決して近所にも言わないでください。あと、事件が新聞に載ることだけは勘弁してもらえないでしょうか」とさまざまな要望を持ちかけてくる。

同時に、捜索への立ち会いを拒否する親も少なくない。その気持ちは理解できる。われわれも、後難を回避する観点から可能な限り要望には応じてきた。だが、ほかの親と違って、この父親は逃げなかった。だからこそ、私はこの事件をいまだにはっきりと覚えているのだ。

アメとムチの説得が奏功

話を戻そう。われわれはWに対して、覚醒剤に関係するブツをすべて出すようと促した。すると、Wは憮然とした表情で「知らねぇよ。関係ねぇだろ」と態度を硬化させた。そこで再び強面の捜査官が登場する「おい、それでいいんだな。本当だな!」とすごむ。そして、すかさず柔和な物腰の捜査官が「大丈夫だよ、心配いらないから」と諭す。

アメとムチの説得が奏功して、Wはたじろぎながらもバックの中や机の引き出しから「関係証拠品」を次々に取り出してきた。ガサが終了する頃には、数袋の覚醒剤に、さまざまな使用器具が出そろったが、それに加えてMDMA、大麻、大量の睡眠薬、さらには未使用の注射器まで見つかったのである。

捜索終了と同時に、Wは覚醒剤所持で現行犯逮捕されることになる。だが、いざ逮捕というところで、Wは「ワーッ!」と叫びながら階段を駆け下り、逃亡を図った。当然ながら、待機していた捜査員に制止され、逃走防止のために手錠をかけられる。Wは涙ながらに抵抗を続けるが、もはやどうにもならない。

そんな息子の姿を見た母親は膝から崩れ落ち、最後まで毅然とした態度を崩さなかった父親の頬にも涙が伝った。われわれ捜査官にはおなじみの光景だが、両親にとっては人生の一大事に違いない。たとえ覚悟を決めた親であっても、子どもが逮捕される瞬間だけは冷静ではいられないのである。

逮捕から数日間は、ひどい倦怠感を訴えて取り調べに難色を示したWだが、徐々に落ち着きを取り戻し、次のように自供している。母親の言葉どおり「素直な」子だった。

「自分はパソコンが大好きで、暇さえあればネットサーフィンしていた。そのうちにアダルトサイトを通じて裏ビデオを買って楽しんだり、わいせつな掲示板で情報を仕入れたりするようになった。あるとき、掲示板で薬物の話題が盛り上がって、“エス(覚醒剤)は集中力が増すし、眠気もストレスも吹っ飛ぶ。頭もすっきり、セックスにもいい”との話を目にした」

それがきっかけで覚醒剤に興味を持つようになったW。ネットで「エス」を検索すると、いとも容易く密売サイトにたどり着いた。そこには、〈氷(覚醒剤の隠語)あります。0.3g=1万円、1g=5万円〉などと書いてあったという。

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