「マトリ」に息子の薬物証拠を提出した父の覚悟 逮捕される息子を見て泣き崩れる親の胸の内

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さて、少々話はそれるが、先ほど触れたMDMAについて少しだけ解説を加えたい。

MDMAは、「3,4-メチレンジオキシメタンフェタミン」という、フェネチルアミン類に属する合成麻薬で、日本では1989年に麻薬に指定された。類似物質としてMDAやMDEAがあり、摂取すると覚醒剤のような興奮作用とともに、LSDに似た幻覚作用を覚える。外部に対して多弁となって、周辺にいる人物との親近感が増す。最近では、沢尻エリカが所持していたことで、脚光を浴びたことは記憶に新しい。

使用者の多くはなぜか薬効時に歯をかみしめたり、歯ぎしりを繰り返す。そして薬効が消失すると、翌日まで不快感や不安感を持ち越すことになる。依存性も強く、体温や血圧の上昇、心拍数の増加も顕著。不整脈や高体温症を起こして死に至る場合も少なくない。

俗称のクラブドラッグという響きや、ポップでカラフルな錠剤のイメージも相まって警戒感が希薄になりがちだが、そこにこそ落とし穴があるのだ。

話を戻そう。被疑者Wから押収したパソコンを精査すると、ネット密売人や、掲示板で知り合った薬物仲間との交信メールが多数残っていた。そして、彼らが違法薬物について相当な知識を有していること、また、覚醒剤へのはまり具合が尋常ではないことなどが容易に見てとれた。

先に男が覚え、まもなく女に勧める

さらに、捜査官はWの恋人にも事情聴取を行っている。以下は、彼女の弁である。

「Wとは大学に入ってすぐに交際を始めました。聡明でとても優しかったけれど、半年ほど前から激やせし始めて、性格も短気で疑り深くなった。平気でウソをつくし、会うとセックスを求めるように……。

つい最近も、覚醒剤らしき白い粉を“これやると気持ちよくなる。ネットの知り合いからもらった。違法ではない”と言って、執拗に勧めてきました。私が断って帰ろうとすると、汚い言葉で私を罵ったり、平謝りしたりで、とても驚きました」

彼女はこの時点でWが覚醒剤を使っていると確信したようだ。気丈な彼女は何度も、覚醒剤を止めなければ別れると説得した。しかし、Wは「お前もやったら俺の気持ちがわかる。絶対にやめるから信じてくれ。おまえも共犯者だ」とわめくばかりで何も変わらなかったという。

「学校にも出てこないし、夜中に電話があったかと思えば、“庭に誰かいる!”“おまえ彼氏がいるだろう?”と意味不明の発言を繰り返すようになりました。深夜に自宅まで来られたこともある。そのときは、自分の兄に『彼とけんかした。今は会いたくない』と伝えて追い返してもらった。

彼には逮捕を機に覚醒剤をやめてもらいたい。立ち直ってくれるならもう1度付き合ってもいいと思っています。でも、やめなければもう2度と会いたくないです」

彼女は意志が強く、また、薬物の危険性も十分に認識していたため、覚醒剤に手を出すことはなかったが、若いカップルが同時に逮捕されることは珍しくない。「先に男が覚え、まもなく女に勧める」という現象が頻繁にみられるのだ。

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