「死にたい場所を選べない」日本人の悲しい最期 最期まで望みを持って生きられる社会へ

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井手:まったく同感です。公的な保険や財政の目的は、人間が暮らしていくうえで必要な、最もベーシックな部分を支えることです。経済的な理由で病院に行けない人は、そのせいで生命の危機に陥ってしまうかもしれない。そうならないよう、財政や公的医療保険を整えることで、必要な医療を誰でも受けられるようにする。

ですが、そういったベーシックサービスを充実させたとしても、先ほど言われた「今日よりいい明日」を夢見る自由とか、ささやかでも幸せを追求したいという思いをどう満たしていくかという問題は残ると思うんですね。そこで重要な役割を果たすのが、在宅医療を行う医療チームやソーシャルワーカーといった、それぞれの困りごとに汗を流す人たちだと思うんです。

人は地域の中で生きている

佐々木:そうですね。それで言うと、社会の中に居場所とか役割があると、それが生きがいにつながっていくと思うので、コミュニティーの役割もとても大きいと思っています。

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井手:そうなんです。ところが、財政的な負担が増える一方なので、東京のお年寄りを地方の介護施設へ入居させればいいといった議論が平然となされたりします。

こうした議論では、お年寄りが人間として扱われていないんですね。その人が、それまで培ってきた人間関係から暴力的にいきなり切り離されてしまうわけですから。

こうして佐々木さんのお話をうかがっていても、あるいはソーシャルワーカーの仲間たちから話を聞いても、地域の中で人は生きているという当たり前の事実をとても大事にしていることが伝わってきます。僕はそこにすごく共感するんですよね。

(後編に続く)

井手 英策 慶應義塾大学経済学部教授

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いで えいさく / Eisaku Ide

1972年生まれ。東京大学大学院経済学研究科博士課程修了。日本銀行金融研究所、東北学院大学、横浜国立大学を経て、現在、慶應義塾大学経済学部教授。専門は財政社会学。総務省、全国知事会、全国市長会、日本医師会、連合総研等の各種委員のほか、小田原市生活保護行政のあり方検討会座長、朝日新聞論壇委員、毎日新聞時論フォーラム委員なども歴任。著書に『幸福の増税論 財政はだれのために』(岩波新書)、『いまこそ税と社会保障の話をしよう!』『18歳からの格差論』(東洋経済新報社)ほか多数。2015年大佛次郎論壇賞、2016年慶應義塾賞を受賞。

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佐々木 淳 医療法人社団 悠翔会 理事長

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ささき じゅん / Jun Sasaki

1973年京都市生まれ。1998年筑波大学医学専門学群を卒業後、社会福祉法人三井記念病院に内科研修医として入職。消化器内科に進み、おもに肝腫瘍のラジオ波焼灼療法などに関わる。2004年東京大学大学院医学系研究科博士課程に進学。大学院在学中のアルバイトで在宅医療に出会う。「人は病気が治らなくても、幸せに生きていける」という事実に衝撃を受け、在宅医療にのめり込む。2006年大学院を退学し在宅療養支援診療所を開設。2008年法人化し、現職。2021年 内閣府規制改革推進会議専門委員。 現在、首都圏ならびに沖縄県(南風原町)に全18クリニックを展開。約6000名の在宅患者さんへ24時間対応の在宅総合診療を行なっている。

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