トヨタにも繋がるヤフーLINE統合が起こす衝撃 日本が「米中に次ぐ第三極」を目指すカギ

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冒頭で述べたように、ソフトバンクグループの「スーパーアプリ経済圏」と言っても、2社連合だけではアジアの一部地域に限定された攻勢にとどまってしまい、「米中に次ぐ第三極」には到底届かないと思われます。

日本が「米中に次ぐ第三極」になるカギ

そこで、筆者は、日本が「米中に次ぐ第三極」に成りうるきっかけは「すべての産業の秩序と領域を定義し直す戦い」の中にある、そしてその再編の中核こそ、ソフトバンクグループとトヨタ自動車との企業連携にあると考えています。

トヨタ側から見れば、同社の次世代自動車産業におけるレイヤー構造の下層にスーパーアプリとしての「ペイペイ」「LINEペイ」が加われば、非常に強力なエコシステムを構築できる可能性が高まることでしょう。自動車業界におけるEV化、自動化、サービス化と並ぶ四大潮流の1つであるコネクテッド化(スマート化)という重要ファクターにおいても競合には大きな差別化になることは確実です。

IoT、クラウド技術の進化、通信速度の向上・大容量化などを背景に、クルマがありとあらゆるものと「つながる」時代において、スーパーアプリをこれらの企業連合のレイヤー構造の一部にできれば、日本が「米中に次ぐ第三極」に成長していく基点になれるのではないかと思います。

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そして何より、「サービスがソフトを定義し、ソフトがハードを定義する」時代において、研究開発費の量と質でグローバルのトップレベルにあるトヨタ自動車が、自社グループ内に存在する強力なサービスを基点にソフトやハードを生み出すことができれば、GAFAにも匹敵するような大胆なプラットフォームが企業連合全体から誕生する可能性もあるのではないでしょうか。

つながるクルマ。AIが運転手となりハンドルがないクルマ。シェアされるクルマ。EV化されたクルマ――。これらが実現したのちの次世代自動車産業の姿を、想像してみてください。狭義の自動車産業自体は縮小するかもしれない。でも広義の自動車産業は、これまでの自動車産業をはるかに超える規模になる。

「クルマ×IT×電機・電子×金融×その他」がオーバーラップし、掛け合わされる巨大な産業になる。そこにサービスほか周辺の関連産業まで加えるならば、全産業を巻き込むものになると言っても過言ではないでしょう。

そして、やはり日本の強みは製造業での真のデジタルトランスフォーメーションにあり、それを基軸とした複数産業での再編にこそ「米中に次ぐ第三極」となる可能性があると筆者は予想しているのです。

田中 道昭 立教大学ビジネススクール教授

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たなか みちあき / Michiaki Tanaka

シカゴ大学経営大学院MBA。専門は企業戦略&マーケティング戦略およびミッション・マネジメント&リーダーシップ。三菱東京UFJ銀行投資銀行部門調査役、シティバンク資産証券部トランザクター(バイスプレジデント)などを経て、現在は株式会社マージングポイント代表取締役社長。主な著書に『「ミッション」は武器になる』(NHK出版新書)、『アマゾンが描く2022年の世界』(PHPビジネス新書)、『GAFA×BATH 米中メガテック企業の競争戦略』(日本経済新聞出版社)など。

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