資産の取り崩しは、「手持ちの資産の時価評価額」から「最終的に持っていたい資産額」(介護施設の入所費用や残したい遺産額など)を差し引いて、「余裕のある余命年数」で割り算した額を「取り崩していい額の上限(年当たり)」の目処として、計画的に取り崩すといい。計算は簡単なので、毎年計算しよう。運用の利益は「実際に資産が増えてから」、取崩額に反映させるのが保守的で安全な方法だろう(取り崩し可能額を計算する「老後設計の基本公式」については、岩城みずほ氏との共著「増補改訂版 人生にお金はいくら必要か」東洋経済新報社、をご参照下さい)。
なお、老後の生活費に充てるお金を、投資信託の分配金などのインカムゲインで賄おうとするのは止めた方がいい。手数料を考えると、自分で自分に小遣いを支払うのに、1回1万円以上の手数料のATM(現金自動預け払い機)を使っているがごとき無駄になる。
75歳でリスク資産を一気に売却する必要はない
さて、2つ目の問題は、75歳で運用を中止して、以後は定額で資産を取り崩すとしていることだ。これは、何とも「もったいない!」。
そもそも「売り」も時間分散で、という趣旨の記事なのに、75歳でリスク資産を一気に売却するとはどうしたことか。もっとも、積み立て投資の議論にも言えることなのだが、そもそも資産の運用は、その時々や平均の「買値」・「売値」にこだわるのではなく、「その時の最適なリスク資産額」を中心に考えるのが正しい。「買い単価」「売り単価」にこだわる思考(「ドルコスト脳」とでも名付けるか)を、金融業界も日経のようなメディアも、そろそろ卒業すべきだろう。
さて、75歳から、仮に85歳まで10年の余命があるとして、10年間を、リスクを取る余裕があるのに、運用資産を現金化して預金に入れてしまうのは、本人にとっても、相続人にとっても、大きな機会の損失だ。
自分が歳を取って判断力が覚束なくなったり、運用で失敗した場合に取り返す時間が乏しくなったりする場合を想像して、「高齢になったら、運用なんて止めてしまいたい」と思う気持ちは分からなくもないが、これは、「自己中心的感情による想像力欠如」とでも呼びたくなる、克服すべき感情のように思える。
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