「日経式60歳からの資産取り崩し法」の問題点 「老後のお金」の「正しい使い方と増やし方」

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「3%で運用しながら、運用資産額の4%の取り崩しなら、資産はかなり長持ちするだろう」とは容易に想像できる。自称専門家が「シミュレーション」と称するような計算にも、「○%で運用、×%で取り崩し」のような例が多いし、企業年金のようなお金の管理主体も同様に運営されている。

「企業年金」と「個人の資産管理」の大きな違いとは?

だが、企業年金と個人の資産管理には大きな違いがある。企業年金の場合、運用の失敗などで年金積立金が一定以上に不足すると、年金の母体企業が特別に掛け金を拠出して積み立て不足を埋めて行く仕組みが制度化されている。ところが、個人の場合は、年金基金に対する母体企業のような「いざというときに頼れる相手」がいないことが多い。

資産の取り崩しは、その時々の保有資産額に連動してもいいと思うが、将来稼げるであろうと期待する運用益をあてにして、現在のお金を使うと、使いすぎになる可能性がある。

60歳というと、95歳までの人生を想定するなら(長生きの可能性は考えるべきだし、配偶者の余命も考えよう)35年くらいの老後を想定しなければなるまい。60歳で資産の4%を取り崩すのは「使いすぎ」の危険がある。

もう一点指摘しておくと、目下「3%」は安定的に達成出来る運用利回りではない。現在の年金基金等の機関投資家が使っている期待リターンは、ざっくり言って、内外の株式が5%、債券が0%だ。平均的に3%を目指すためには株式の組み入れが6割必要な計算だし、「税引き後3%」のためには約3.75%のリターンが必要な計算だ。

運用商品の手数料も考慮に入れると、運用口座の条件や選ぶ商品にもよるが、6~8割程度の株式性リスク資産の組み入れ率がないと、「3%」は目指せない。市況が悪い場合に大きな損失が出ることは十分ありうる。債券にプラス利回りがあり、しかも金利が下落して債券価格が上昇するような過去20年、30年間くらいのデータを見て、「3%」が安定的に目指せると思うのは甘い。現在の運用環境を直視すべきだ。

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