絵都子の剣幕に驚いたのか、晴一はボソッと言った。
「相談所のときは、デートのお金はすべて男が出すように仲人さんに言われていたから」
仲人に言われていたから、出すのは惜しかったけど出していたのか。その言葉を聞いて、絵都子は心底ガッカリした。
その日を境に、晴一はあまりお金のことを話題にしなくなった。一方で、絵都子の中では、この人と本当に結婚していいのかという思いが、日に日に大きくなっていった。
婚約破棄を決めた決定的な出来事
あるとき、晴一の会社の同期が、退職をすることになった。ステップアップを図り、もっと給料のいい会社に転職を決めたのだという。その送別会があったそうなのだが、晴一は参加しなかった。その理由をこんなふうに言った。
「これからもっと稼ぐようになるヤツのために、僕らが会費を払って送別会をやるのって、おかしいよね。そいつがごちそうしてくれるなら、僕は行くけど」
さらに、ある国会議員の不祥事がテレビのニュースで伝えられたときには、テレビを見ながら、いかにも憎々しそうに言い放った。
「コイツらは、僕らの税金で高い給料をもらって、一等地にある官舎に安い家賃で住んでる。本当にどうしようもないよな!」
お金には細かいが、人を悪く言ったりしない穏やかな人だと思っていたが、それを言い放ったときの顔がゾッとするくらい醜く、絵都子の背筋は凍りついた。心の中の幕がストンと降りた。2週間後には晴一の両親が出てきて、両家の顔合わせを行うことになっていたが、その前に婚約破棄をしたほうがいいと、このとき強く思った。
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