さらに、その宝石商の友達から、ブライダルフェアに行くと、ただで結婚式の料理が試食できるという話を仕入れてきたようだった。
「ホテルによっても違うらしいんだけど、出るフルコースの料理をワンプレートに少しずつ乗せて出してくれるところがあったり、メインだけ食べられたり、デザートだけ食べられたりするところもあるって。中には、先着何名様はフルコース無料というところもあるらしいから、ちょっと調べてみるよ」
結婚話が進むにつれて、とにかく自分が損をしないように、また、お金を払わずにどれだけ得ができるかと、そんな話題ばかりを話す晴一にだんだん嫌悪に近い感情を持つようになった。
釣った魚には、もう餌をやらないってこと?
また、婚約してからというものスーパーで食材を買っても、外食をしても、絵都子もお金を割り勘で払うことが、いつの間にか暗黙の了解事項となっていた。
あるとき、食券を入り口の自動販売機で買うそば屋に入った。晴一は自分が食べる430円のかき揚げそばのチケットを買うと、スタスタと店の奥の店員に渡しに行き、2人が座るテーブルを確保した。そのとき、こんな安いお店でも自分の分のお金しか払わないのかと思ったら、何だか腹立たしくなったが、410円のキツネうどんのチケットを買った。
そばとうどんを前にして、晴一が言った。
「そばとうどんだと、そばのほうが原価が高いんだよ。だから値段が同じなら、そばを食べたほうが得。それにかき揚げそばが430円なのに、油揚げしか乗っていないきつねうどんが410円って、きつねうどんはコスパが悪いよね」
ここまで細かいことを言われると、さすがに気持ちが抑えきれなくなった。ひとまず店の中なので黙ってうどんをすすって食べたのだが、店から出るなり、絵都子はとげとげしい口調でまくし立ててしまった。
「原価、原価って、そんなことよりも、そのときに食べたいものを食べればいいじゃないっ! 相談所にいてデートをしていたときは、私にお金を払わせないで、全部ごちそうしてくれていたよね。釣った魚には、もう餌をやらないってこと? もちろん私も働いているし、すべてをごちそうになろうなんて思っていないけど、410円のうどんのお金も女に出させて、さらに、そばとうどんの原価がどうとか。一緒に食事していても、ちっとも楽しくないわ!」
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