世界が注目する歴史学者の「文明を見る眼」 世界を動かしバランスを保つ「知られざる力」

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そして、世界は再び階層制、すなわちオーストリア、イギリス、フランス、プロイセン、ロシアの「5強国による5大国体制」によって支配されることになる。

自らを刷新することができない階層制をネットワークが崩壊させるが、ネットワークだけでは社会は混乱と無秩序に陥り、再び階層制が台頭するというパターンが、近代の歴史には見て取れるのだ。

非公式なネットワークの力と危険性

20世紀後半は、再びネットワークが階層制を凌駕した時代と見ることができる。第2次世界大戦のような総力戦では有効だった階層構造の制度は、複雑化する消費社会にはまったく不向きだった。

ソヴィエト連邦で実施された階層制による計画経済は失敗し、反体制の革命ネットワークの勃興によって、1991年にソ連は崩壊する。

官僚制を痛烈に批判していたキッシンジャーは、政府中枢の外へあらゆる方向に水平に広がるネットワークを構築し、大きな影響力を発揮したし、階層制の国家同士が創設した機関ではない、非公式のネットワークである世界経済フォーラム(ダヴォス会議)は、共産主義者のネットワークを、資本主義者の国際組織に統合する場となった。

インターネットを生み出したのは、決して単一の機関ではなかったし、ワールド・ワイド・ウェブもまた、非集中型のネットワークによるイノベーションの産物だった。

近代の印刷術の発明や、科学革命、産業革命と同様に、20世紀におけるテクノロジーの発達が、ネットワークの成長を大きく促したのである。

しかし、歴史が教えるように、ネットワークは楽園を約束するものではない。サイバースペースはその脆弱性ゆえにマルウェアやウイルスなどによるさまざまな攻撃にさらされ、ネットワークはいいアイデアだけでなく、悪いアイデアも生み出して広めることができるので、フェイクニュースを拡散し、ポピュリズムや移民排斥主義を広めることもある。

また、ネットワークと市場が手を組むと、ごく一部のネットワーク支配者に収益の大半が流れて、不平等化が急速に進む。

人類にとって、ネットワークと階層制のどちらが優れているというわけではない。ネットワークだけに頼れば、世界は混乱と無秩序に陥るだろうし、階層制に依存すれば、イノベーションは訪れず、硬直した全体主義的な管理社会となりかねない。

ファーガソンは本書の構想を、イタリアはシエナのカンポ広場とマンジャの塔から得たという。

そして彼は、カリフォルニア州にあるフェイスブックやアップル、グーグルといった企業の、広場のような水平構造の社屋と、ニューヨークの5番街にある58階建ての垂直にそびえ立つトランプタワーを対比させることで本文を結んでいる。

気候変動やテロ、サイバー攻撃といった現代のグローバルな問題を解決できるのは、ネットワークだろうか、それとも階層制だろうか? はたまた、両者の最適な組み合わせなのだろうか?

柴田 裕之 翻訳家

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しばた やすし / Yasushi Shibata

翻訳家。早稲田大学、Earlham College卒業。訳書に、ケーガン『「死」とは何か』、ベジャン『流れといのち』、オーウェン『生存する意識』、ハラリ『サピエンス全史』『ホモ・デウス』、カシオポ/パトリック『孤独の科学』、クチャルスキー『完全無欠の賭け』、ヴァン・デア・コーク『身体はトラウマを記録する』、リドレー『進化は万能である』(共訳)、ファンク『地球を「売り物」にする人たち』、リフキン『限界費用ゼロ社会』ほか多数。

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