世界が注目する歴史学者の「文明を見る眼」

世界を動かしバランスを保つ「知られざる力」

言うまでもなく、人類は社会的な生き物だ。ヒトは無比の神経ネットワークをもち、生まれながらにネットワークを形成するようにできている。人類がほかのあらゆる動物と一線を画するのは、コミュニケーションを行い、集団で行動し、ネットワークを形成する能力にある。

そして本書によれば、その能力によって文明を築いた古代の人々は、強力な階層制のもとに暮らしていたという。つらい仕事に従事させられた古代の庶民は、一部の特権的なエリート層によって従属させられ、権力に楯突くことは禁じられ、横のつながりをもつことは不可能だった。

このような階層制が人類の歴史と同じくらい古いのは、それによって権力の行使が効率的になるからだった。イノベーションはまれだが強固な社会秩序が持続するこのような世界に、人類は何世紀にもわたって生きていた。

ネットワークが世界を大きく変え始めた時代

こういった状況が大きく変化したのが、15世紀から18世紀にかけてである。この間、ヨーロッパは大航海時代を迎え、新しい交易ルートのネットワークが生み出された。当時の探検家たちは、造船や航海、地理、戦争の知識を分かち合い、1つの社会的ネットワークを形成していたのである。

ニーアル ファーガソン/歴史家。スタンフォード大学フーヴァー研究所の上級フェローであり、ハーヴァード大学ヨーロッパ研究センターの上級フェロー。北京の精華大学における客員教授やワシントンDCにあるニッツェ高等国際関係大学院のディラー=フォン・ファステンバーグ・ファミリー財団卓越研究員も務める。『憎悪の世紀』、『マネーの進化史』、『文明』、『劣化国家』、『大英帝国の歴史』、『キッシンジャー』などの著書がある(写真:© Dewald Aukema)

彼らスペインやポルトガル出身の冒険者たちは、優れたテクノロジー(および自分たちが持ち込んだ病原菌)によって新大陸の支配者を権力の座から引きずり下ろし、アジアやアフリカの帝国や王国を弱体化させ、近代前期の世界を変容させることとなる。

また、印刷術と宗教改革も、ネットワークに大きな力を与えた。グーテンベルクが発明した印刷機によって、ルターのメッセージは瞬く間に広がり、ローマカトリック教会という権威に対する反抗の波が解き放たれたのである。

印刷術によって勢いを得たネットワークは、やがて科学革命と啓蒙運動をもたらした。産業革命においても、新しい技術を広めるだけでなく、知力や資本をプールするうえで、ネットワークは重要な役割を果たした。

18世紀後期の大きな政治革命では、ネットワークがその推進力となった。アメリカ独立革命で主要な役割を果たしたのは、フリーメイソンのネットワークだったし、フランス革命は王家の階層制に対するパリの群衆のネットワークによる勝利ともいえよう。

ただし、階層制なき世界は、無秩序に陥りがちで、フランス革命後の混乱した社会を安定させたのは、結局のところナポレオンという徹底的な管理主義者だった。

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