小林武史さんの"農場"に30代男女が集まるワケ 木更津の大地で"有機の限界"に挑む人たち

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写真左から松本香苗さん、伊藤綾花さん(撮影:東洋経済オンライン編集部)

「敷地内にレストランもあるので、作った野菜をすぐ料理してもらってお客様に食べていただける。理想的な環境ですよね」

農場でとれたヤングコーン。ひげまで食べられる新鮮さ(撮影:東洋経済オンライン編集部)

そう言いながら案内してくれた畑では、エディブルガーデンで体験やイベントを担当する松本香苗さん(31歳)が、スマホで音楽を聴きながら収穫している最中だった。

「トウモロコシは有機で栽培するのは難しいので、私が大好きなヤングコーンのうちに収穫して食べてもらっています。採れたてのヤングコーンは、生のままがいちばん美味しくて、ヒゲまで食べられるんですよ。ぜひ食べていってください。さっき小林も来て、丸かじりしたヤングコーンの味に感動していました」

松本さんがそう笑って話してくれた。

理想の農業を目指す者には恵まれた環境

ここで取り組んでいる有機農業はまだまだ実験的な段階だが、「育てながら学んでいくことが大事なので、失敗したことも正直に来場者に伝えています。それも含めて、自分もやってみようかなと思ってくれる人が増えてくれたらうれしい」と伊藤さんは続ける。

完成されたものしか流通していない世の中だからこそ、失敗も含めた生産過程を実際に見て、知って、食べてみる。そうすることで本当の意味での豊かさを感じてもらいたい。

これはスタッフみんなに共通する思いだ。そんな彼らの活動を後押しするリーダーの小林さんは、よくこんな言葉を口にしているという。

「まずはやってみること。価値は後からつければいい」

一般的な農家は、すでに市場のニーズの高いものを生産するケースが多い。そのため、ブームになった野菜は供給過剰になって値が下がることもある。その点、この農場は「自分たちが作りたい野菜」をまず作り、食べてもらうことでニーズを開拓する。そんな野望を秘めている。

土をつくり、自然と共存し、鶏や牛、虫や微生物までを含めた命のつながりの中で食べ物を育てていく。そんな理想の農業を目指す者にとって、この農場はある意味とても恵まれた環境と言えるだろう。

その理想が日本の人々にこれからどう伝わるか。この木更津の農場には、未来の可能性が満ちあふれている。

樺山 美夏 ライター・エディター

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かばやま みか / Mika Kabayama

リクルート入社後、『ダ・ヴィンチ』編集部を経てフリーランスのライター・エディターとして独立。主に、ライフスタイル、ビジネス、教育、カルチャーの分野でインタビュー記事や書籍のライティングを手がける。

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