小林武史さんの"農場"に30代男女が集まるワケ 木更津の大地で"有機の限界"に挑む人たち

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「当時、僕は文系の学部に通う普通の大学生でしたが、当時、クルックのレストランでバイトをして、お店で提供するこだわりのオーガニック食材に驚いたんです。味はもちろん、レストランに野菜を卸している生産者やシェフの話の面白さと、生き生きとした表情。それまでファストフードのお店でのバイト経験しかなかった僕には衝撃でした。

そこで卒業後は1年間、鴨川にある家族経営の小さな農場でおコメづくりを手伝う進路を選びました」

その後、小林さんから「一緒に農場を探すぞ」と声をかけられ、迷うことなく合流したという。小林さんは、Mr.Childrenの櫻井和寿氏、坂本龍一氏と3人で資金を拠出し、環境プロジェクトへ融資する「ap bank」を長年運営している。その小林さんは、この土地を見つけたことを皮切りに、「農地所有適格法人 株式会社 耕す」を設立、農場経営に乗り出すことになる。

伊藤さんらは長野など複数の土地を訪ね歩き、やっとのことで探し出したのが、ここ木更津の土地だった。

今のような農地が最初から用意されていたわけではない。ここはもともと牧場跡地だった荒れ地で、伊藤さんたちが数年がかりで開墾してきた。

以来、約10年間という気の遠くなるような年月を経て、現在は伊藤さんがリーダーとなり、有機野菜作りを精力的に行っている。

畑に着くなり、楽しそうに枝豆の説明を始めた伊藤さんの輝く汗がまぶしい。

「ここにトラクターでガーッと枝豆の種を蒔いたので、3日くらいすると芽がきれいに生えてくるんですよ」

枝豆の品種は、君津市の小糸川流域で栽培されている大豆「小糸在来®」だ。

「これがめちゃめちゃ美味しくて、香りもすごくいいんです。甘みもあって、塩をしっかりふると味が引き立って。茹でた瞬間に食べるとたまらないですね」

少量生産・割高=有機農業でビジネスが成り立つのか

その美味しさにほれ込んで、わざわざ移住してくる人もいるほどだという。伊藤さんは8年ぐらい前からこの枝豆を作り続け、今は年に3、4トンほど収穫している。ほかにも、例えばニンジンは冬と春に50トンずつ、年間100トンにも及ぶ量を収穫する。有機といえば少量生産、という一般的なイメージとかけ離れたスケールの大きさに圧倒される。

「かなりの生産量があるので、イトーヨーカドーなどの大手スーパーにも卸しています。ここに来たお客さんとの会話の中で、ニーズが高い野菜を地元のスーパでも買ってもらえることが理想ですから。10年来の付き合いがあるスーパーのバイヤーさんから市場のニーズを吸い上げて、契約栽培のような形が実現できているのはありがたいですね」

「有機野菜は値段が高いから儲かるだろう」と思うのは大間違いだ。むしろ農薬が使えないため害虫の被害にも遭いやすく、ハウス栽培でもないので、変動する天候の影響も受けやすい。ある意味、リスクだらけのビジネス。365日気が抜けず大変そうである……。そんなことを考えていたら、こちらの思いを察したのか、伊藤さんが次の場所へと案内してくれた。

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