ピジョンも関わる「母乳バンク」の知られざる姿 ニーズ高く国際的に進んでいるが日本は牛歩

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「母乳か人工乳か、どちらかしかないのでは、お母さんは追いつめられてつらくなります。その中間のものとしてドナーミルクがあれば、お母さんたちは焦らずに母乳が湧いてくるのを待てます」

これもドナーミルクのいいところだ。母乳がなかなか出ないということは月満ちて健康な子を産んだ母親でもつらいのに、とても小さな赤ちゃんを産んだ母親がどれだけつらい気持ちになるかは、察するに余りある。

ドナーミルクが着いたら安心して、急に自分の母乳が湧いた母親もいたそうだ。

さらに、ドナーミルクには医療費削減効果もある、と水野さんは言う。

「新生児医療は非常に高額なので、医療費にも関係してきます。赤ちゃんが早くから母乳を飲めれば栄養状態がよくなり、退院が早まったり、未熟児網膜症や、退院後も自宅で在宅酸素療法が必要になる慢性肺疾患が減ったりすることもわかっています」

海外には母乳バンクの医療費削減効果を伝える論文は多く、例えば、アメリカでは、赤ちゃんが壊死性大腸炎になれば治療費の総額は1人当たり約2000万円になるという試算があるという。

しかし日本は残念なことに予防医療の風土はまだなく、子どもに使われる公費はいつも少ない。

ドナーミルクがあれば助かる命がある

水野教授は、民間企業と手を携えてやっていく道を選んだ。そして、そのことについて、水野教授はポジティブだ。

「母乳はいい、と言うだけでは、お母さんたちを追いつめます」。水野教授は、NICUで母乳を勧めるにはドナーミルクという中間の選択肢が必須だという(写真:昭和大学旗の台病院NICUで筆者撮影)

「今度、ピジョンの支援により日本で2カ所目の母乳バンクができます。もし、さらに多くの企業がパートナーになってくださり3カ所、4カ所と母乳バンクを作っていけたら、こんな例は世界にありませんよ。オリンピックのゴールドパートナーのように、小さく生まれた子どもたちが育っていくプロセスを応援してくださる民間企業の輪ができたら、それはすばらしいことだと思います」

道は、遠い。でも、ドナーミルクがあれば助かる命がある。

「極低出生体重児は、元気に育ってくれれば、20年後にはちゃんと労働者になります。今は本当に小さいですが、彼らは、子どもがどんどん減っている日本に生まれてきてくれた私たちの大切な仲間なんです」

水野さんは、これからも母乳バンクの必要性を粘り強く訴え続けていく覚悟だ。

河合 蘭 出産ジャーナリスト

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かわい らん / Ran Kawai

出産ジャーナリスト。1959年東京都生まれ。カメラマンとして活動後、1986年より出産に関する執筆活動を開始。東京医科歯科大学、聖路加国際大学大学院等の非常勤講師も務める。著書に『未妊―「産む」と決められない』(NHK出版)、『卵子老化の真実』(文春新書)など多数。2016年『出生前診断』(朝日新書)で科学ジャーナリスト賞受賞。

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