補助金制度の利用者は延べ約900人。2年間で合計20万円まで申請でき、3年目以降も2年ごとに上限20万円まで申請できる。
通常、各種申請は上長を通すルールだが、不妊治療費については担当窓口に直接提出する仕組みにした。もともと社員の男女比が8対2と男性が多いこともあるが、補助金申請も男性が多く、「わざわざパートナーのことを上司に伝えたくない」という男性社員から「上長に言わずに申請できるのがいい」と好評だという。
「制度を作ること=選択肢を広げること。休暇制度の利用者は数人だが、それを選ぶかどうかは社員次第。あくまでも、1人ひとりを大切に思っていることを伝え、出産で諦めないための応援メッセージだと思っている。休職しなくても、そういうことを考えている会社だということで、人材育成への期待が高まる」というのは、オムロン・エキスパートリンクの人財開発センタ ダイバーシティ推進部 上村千絵部長だ。
ダイバーシティ推進部の設立は2012年。それまで、人事部の中で企業内保育所の設置や育児休職制度(2歳の3月末まで)、1度退職しても3年以内に復職できるキャリアリエントリー制度など、仕事と家庭の両立支援制度を充実させ、”辞めない”環境を整えてきた。しかし、キャリアとの両立を考えたとき、課題となったのが制度の利用しやすさだ。
「人事部は男性が多い。しかも、人事部に話をすると評価が下がるのではと、心理的にもハードルが高い」(上村氏)。そのため、社員の声を聞いて会社に上げる、人事と現場の間の立場として機能する部署が誕生した。
一方で、「不妊治療の難しさは、個人的なことであること。休んで病院に行くことを会社に伝えたいか、伝えたくないかは、本人がどう望むか次第。不妊治療に限らず、LGBTなども含め、応援しているはずなのに、社員の足を引っ張ることになってはいけない」(上村氏)とセンシティブなダイバーシティー問題には、かなり丁寧に向き合っている印象だ。
メルカリは最大200万円の補助
2013年創業のベンチャー企業のメルカリは、2016年7月に不妊治療補助金制度を導入した。なんと最大200万円、期限は無制限だ。保険適用で本人負担が3割ならば全額会社負担、自費診療ならば、会社が7割負担し、本人は3割負担で済むという(国の補助金を利用している場合は、その分は除く。例えば1割補助金が出ている場合は、会社は6割補填)。
申請方法もいたって簡単。Web上の申請フォーマットに記入するだけ。住所変更や結婚申請などと同様の手続きだ。上司の目に止まることもなく、直接人事に届く。
補助金制度導入の背景について、ピープル・エクスペリエンス・チーム マネージャーの望月達矢氏は「不妊治療は個人の負担で乗り切るには、精神的にも肉体的にも金銭的にも負担が大きい。あくまでもダウンサイドの部分を会社が支えたいというのが導入の目的。誰でもなりうるものをフォローしていくという考えが根底にある」と言う。
また、「人事労務の業務では、法律でカバーできているようで、できていないものに常日頃から触れている。その中で国の支援では賄いきれていないものも見えてくる。不妊治療についても、保険適用外の治療が高額なので、適用外のものをキャッチしたいと、国の支援で足りていない部分をフォローした」(望月氏)という。
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