ゴッドタン「弱者のために番組作る」笑いの流儀 犯罪歴発覚したEXIT兼近の出演強行した真意

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そんな「ゴッドタン」が兼近の出演を自粛しなかったのも当然だ。過去に過ちを犯した人を見て見ぬ振りをするのではなく、どうやって笑って許せるかを考える。それがこの番組のやり方だからだ。

EXITが挑んだ企画は「芸能人ストイック暗記王」だった。兼近が与えられた課題の暗記をしようとすると、目の前で寸劇が繰り広げられ、彼の集中力を奪っていく。このとき行われていた寸劇の内容は、EXITが順調に活動していたところで、りんたろー。が問題を起こしてしまうというものだった。それを見ていて兼近は、暗記のことも忘れて思わず相方をかばってしまった。

週刊誌の報道が出る前に収録されていたこの企画は、まさにその後に起こる騒動を予見していたような内容だった。実際にはトラブルを報じられたのはりんたろー。ではなく兼近のほうだったのだが、それによって彼らの絆の強さが改めて明らかになった、というところは現実と同じだった。これを自粛せずに放送を決めたというのは理解できる。むしろ、これこそ、このタイミングで放送するのにふさわしい内容だった。

人の過ちを許し、弱さを肯定する

今の世の中では、1度間違いを犯した人がどこまでも徹底的にたたかれてしまいがちだ。ストレスを抱えて生きている現代人にとっては、自分と関係のない悪に憤って正義を気取ることが、安易な娯楽になっているのかもしれない。

だが、人として本当に大切なのは、悪いことをした人をどうやって許すのか、どうやって受け入れるのか、ということではないか。「笑い」という武器を使って、人の過ちを許し、弱さを肯定する「ゴッドタン」は、今の時代に最も必要とされるべき、砂漠に湧いたオアシスのような番組だ。

ラリー遠田 作家・ライター、お笑い評論家

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らりーとおだ / Larry Tooda

主にお笑いに関する評論、執筆、インタビュー取材、コメント提供、講演、イベント企画・出演などを手がける。『イロモンガール』(白泉社)の漫画原作、『お笑い世代論 ドリフから霜降り明星まで』(光文社新書)、『教養としての平成お笑い史』(ディスカヴァー携書)、『とんねるずと「めちゃイケ」の終わり〈ポスト平成〉のテレビバラエティ論』(イースト新書)など著書多数。

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