離婚そして禁酒、55歳になったブラピの現在地 最新作「アド・アストラ」に重ねた孤独感
ピットとグレイ、何人かの親しい友人たちが夕食を楽しんでいる間、グレイの妻は別の部屋に閉じこもってアカデミー賞をテレビで見ていた。そして、オスカー史上最大級に混乱した瞬間に自身の映画が巻き込まれていたことをピットは間接的に知らされる羽目になった。作品賞は『ラ・ラ・ランド』が受賞すると間違えて発表されたものの、実際の受賞作品は『ムーンライト』だったのだ。
その顛末を知らされたピットはどのように反応したのだろうか? そのときの彼の落ち着いた、ゆっくりとした話しぶりにグレイは感銘を受けた。「彼は『おや、まあ、それはすごい』と言ったんだ」。そしてグレイは思い出し笑いをした。「もちろんうれしくないとか、受賞に感謝していないといったことはまったくなかった。でも、ブラッドは、華やかな騒ぎに夢中になったりしなかったんだ。彼は冷静でいることがどういうことなのかわかっているのだろう」。
絶頂期のピットから突然の電話
ピットとグレイは20年以上にわたって友人同士である。2人の出会いはグレイが監督デビューした1995年にさかのぼる。『リトル・オデッサ』という題名の低予算の犯罪映画だった。その当時、ピットは『レジェンド・オブ・フォール/果てしなき想い』や『インタビュー・ウィズ・ヴァンパイア』で演じた長髪の美男子のイメージから路線を変更しつつあった。
ピットは、彼自身の新しい何かをグレイが引き出せると感じていたのだった。「グレイの映画には1970年代の映画の手触りがあった。自分がもう引き離されてしまったような映画の感触だ」と、ピットは私に語った。「彼の映画には乱暴さがあった。暴力的だったんだ。そして、彼は人々に重きを置いているように見受けられた」。
グレイはピットからの連絡に驚いた。「スターの座を極めかけている人が電話をかけてくるなんてことは想像しがたいことだ。何しろ私はまだ25歳で、この映画1本以外には何の実績もなかったのだから」と、グレイは話す。「奇妙で非現実的だった。でも、とても感動した。ピットは非常に洗練された芸術的な審美眼を持っていて、つねに新しい視点を探しているんだ」。
2人は協働することを決めた。だが、出だしは順調ではなかった。2010年、ピットはジャングルを舞台にしたグレイの大作映画『ロスト・シティZ 失われた黄金都市』を途中降板した(彼の役柄は最終的にチャーリー・ハナムが演じた)。「あのときは、アマゾンに赴くことはスケジュール的に無理だったんだ」と、ピットは言った。
何年も経って、グレイは『アド・アストラ』の企画案を持って、再び断られるだろうと思いつつ、ピットを訪ねた。「彼がやると言ってくれても、実際にやってくれるとは思わなかった」と、グレイは言う。「私が映画のプロとしてブラッドについて言える唯一の難癖は、もっと多くの作品で主演するべきだということだけだ。彼のようにスクリーンを支配できる人はほとんどいない。彼が主演しているのをいつでも見られたらいいのにと思っている」。