日韓漁業協定の日本にはどうにも不平等な現実 成り立ちから追ってみればカラクリがわかる

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実は韓国の大型巻き網漁船によるサバの漁獲量の30%は、日韓漁業協定に基づいて暫定的に認められていた日本のEEZ内での漁獲であった。しかし、日韓漁業協定が2016年6月に期限が切れたまま更新されていないため、韓国の漁船は日本側の漁場へ入ることができなくなった。日本政府は2019年4月現在も日韓漁業協定の継続の交渉に応じていない。

そのため、韓国漁船は日本のEEZ内で漁ができなくなり、結果として密漁も増えているというわけである。

日韓漁業協定の成り立ちから振り返ってみよう。

韓国が一方的に得をしていた日韓漁業協定

1994年、国連海洋法条約により、最大200海里のEEZが認められるようになった。日韓両国も、隣接する漁業管轄水域を確定する必要から、漁業交渉が進められた。竹島近海は両国の領有権の主張が重複していたため、同島がないものとして検討された。だが、そのほかの日本側の重複海域では日本が韓国に譲歩し、日本側では日韓両国の漁船が操業できる暫定措置水域とされた。

1998年10月、当時の小渕恵三首相が韓国の金大中大統領と会談し、「日韓共同宣言」が発表された。小渕総理は「韓国国民に対し植民地支配により多大の損害と苦痛を与えたという歴史的事実を謙虚に受けとめ、これに対し、痛切な反省と心からのお詫び」を述べ、金大統領は両国の和解と善隣友好協力に基づいた関係構築が時代の要請であると応えた。

日韓漁業協定はこの日韓共同宣言の引き出物として、韓国に広範な漁場をプレゼントしたようなものだ。日本の漁業関係者の中には、「不平等条約」と呼ぶ者も多い。

ともあれ、この協定によって韓国の漁業は大いに恩恵を受けた。

韓国の海洋水産部によると、日本のEEZ内で操業した韓国漁船は、韓国のEEZ内で操業した日本漁船の5倍以上であり、漁獲高は10倍にものぼる。そもそも日本には利のない協定であるが、韓国にとってはこの協定こそが頼みの綱だったのである。

漁場を認められた韓国漁船の行動には、目に余るものがあった。日本海におけるズワイガニ漁では、韓国は底刺し網漁やカニ籠漁などの固定式漁法を導入し、小型のズワイガニもすべて獲ってしまう。しかも日本より長い6カ月もの漁期を設定していたため、資源の枯渇に影響を与えている。

韓国の漁船の中には、日本との中間線のギリギリの海域まで来て、水面下で漁網をこっそり日本側の海域に送り込む漁師までいる。また、韓国はカニやアナゴの漁に使う「籠」という漁具の1割以上を海中に放置している。すると、放置された籠の中に多くのカニや魚が入り、そのまま死んでしまう。これは「ゴーストフィッシング」と呼ばれ、深刻な環境問題になっている。

日本は、EEZ内の漁業資源が減少していることや、韓国漁船の違法操業が絶えないことを理由に、暫定措置水域内での漁業規制の強化、GPSを利用した両国漁船の違法操業監視体制の構築を韓国側に求めている。

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しかし韓国側は、漁獲量の縮小や警備の強化の話題は避け、逆に韓国側のタチウオの漁獲高の倍増を主張した。そのため話し合いは進展せず、日本は交渉のテーブルに着くのを見送った。結果、日韓漁業協定は更新されなかったのである。

日本海域でのサバ漁が認められない韓国漁船は、済州島付近に移動し、小型のサバまで獲り続けている。また、韓国人の好きなタチウオの漁獲高は乱獲のため、最盛期の1割ほどにまで減少している。いずれ資源が枯渇するのは避けられないだろう。

そればかりか、韓国海洋水産部の金栄春長官は「(日韓漁業)協定の破棄を検討している」と発言した。また、「協定を破棄し、漁場を獲得する」と、国際法を無視した強硬論を唱えたが、その後、2018年10月には「いまのところ、日韓漁業協定の破棄は検討していない」と考えを改めている。

日本政府は、韓国が水産資源の維持に協力しないかぎり、漁場の割譲は行わない方針だ。そもそも日本の譲歩により成り立っているのが日韓漁業協定だ。反日意識を前面に出し、国家間の合意事項を順守しない韓国に対し、日本はこれ以上、水産資源を提供する必要はないのである。韓国がそれに気づくまで、日韓漁業協定の話し合いは進めるべきではない。

山田 吉彦 東海大学静岡キャンパス長(学長補佐)、海洋学部教授

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やまだ よしひこ / Yoshihiko Yamada

1962年千葉県生まれ。学習院大学卒業後、東洋信託銀行入行。1991年、日本船舶振興会(現・日本財団)に移り、海洋グループ長、海洋船舶部長などを歴任。北朝鮮工作船の一般展示や沖ノ鳥島の有効利用案の提示など、斬新な海洋関係事業を数多く実現。海賊問題、沖ノ鳥島、対馬、尖閣諸島などの問題をいち早く提起した。2009年より現職。博士(経済学、埼玉大学)。海洋を経済、政策、外交、環境、安全保障など横断的に研究する第一人者であり、テレビ出演も多数。

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