「ガンダム」安彦作品が描き出す人間たちの実像 アニメ文化はアジアを救うカギとなる

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中島:そうかもしれない。だからジブリ作品のなかで、小さなところで着地するタイプか、あるいは、物語の増築に次ぐ増築みたいなタイプ。僕はその2つの方向性が好きなのかもしれない。大きなメッセージ性や強い審級があるようなものは苦手です。『もののけ姫』は、観念が先に立っている気がする。

杉田:サブカル的なトポスというものは、大きな物語ではなくって、小さな物語を継ぎ足しながら、増築を繰り返して、なんとかうまく欲望を暴走させない方向に取りまとめていく、という感じかもしれない。

安彦作品が描く人々

中島:安彦さんは「これこそ正しい理念だ、歴史はこちらへ進むべきだ」なんてことは、絶対に言わない。

中島岳志(なかじま たけし)/1975年大阪府生まれ。大阪外国語大学卒業。京都大学大学院博士課程修了。北海道大学大学院准教授を経て、現在は東京工業大学リベラルアーツ研究教育院教授。専攻は南アジア地域研究、近代日本政治思想。2005年『中村屋のボース』で大佛次郎論壇賞、アジア・太平洋賞大賞受賞。著書に『ナショナリズムと宗教』『インドの時代』『パール判事』『朝日平吾の鬱屈』『秋葉原事件』『「リベラル保守」宣言』『血盟団事件』『岩波茂雄』『アジア主義』『下中彌三郎』『親鸞と日本主義』『保守と立憲』『超国家主義』『保守と大東亜戦争』ほか(撮影:編集部)

「自分でも、これはいったい何だったんだろう」という物語を描きながら、他方では、今の若者たちは前向きな理念が持てていない、と言っていますね。この辺りの微妙な感じが面白い。言わないんだけれど、何らかの大きな物語や理念に向けて、一生懸命生きようとする人間たち。そういう人々の姿を共感を込めて肯定的に描いてもいます。

杉田:確かに主人公たちはみんなそうですね。ある種の純粋な理想に憧れながら、しかし結局それを目指すとどんどん暗中模索になって、蛇行して失敗して……みたいな、そういうタイプ。

中島:けど、その中で具体的な人との交わりのなかで信頼が生まれたり、満洲の建国大学のような空白のユートピアみたいなものがふっと生まれる。それが安彦さんのアナキズム的な感性なのでしょう。

杉田:例えば『天の血脈』では、特別な才能もない無名の主人公のまわりに、いろんな国や民族の人間たちが自然に集まって、あたかもその場に「小さなアジア主義」のような協働関係が形成されていく。『ファーストガンダム』のホワイトベースもそういう感じです。あれは民間人や戦災孤児たちが寄せ集められた、ほとんど難破船というか難民船のような感じですよね。

中島:『秋葉原事件』を書いたときに「この本には結論がないじゃないか」とすごく言われたんです。でも、僕は最初からそういう結論なんてものは書きたくないから、対象に寄り添うような書き方をしたんですよね。そういう書き方じゃないと、こぼれ落ちてしまうものがいっぱいある。社会学者もどきをやりたいわけじゃない。それは『中村屋のボース』のときと同じです。

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